神奈川県リーグで起きた奇跡 鎌倉インターナショナルFCが劇的逆転優勝で県リーグ1部昇格決定戦へ進出

鎌倉インターナショナルFC
チーム・協会

【Kazuki Okamoto (ONELIFE)】

県リーグ1部昇格を目指す、3年目の挑戦

 11月22日、鎌倉インターナショナルFCは神奈川県社会人リーグ2部最終節で奇跡を起こした。

 徹頭徹尾国際化を意識し、「インターナショナル」をチーム名に冠するクラブとして2018年に誕生した鎌倉インターナショナルFC、通称、鎌倉インテル。初年度はJリーグへと続く道の第一歩である神奈川県社会人リーグ3部を苦しみながらも勝ち抜き、2部リーグに昇格。しかし、創設2年目の昨季はあわや3部リーグへ逆戻りかという想定外の大苦戦を強いられ、Jリーグへの道のりの険しさを早くも味わうこととなった。

 そして、改めて1部リーグ昇格を期してスタートした3年目のシーズン。「今年こそは」と強い決意で臨んだものの現実は厳しく、最終節を前に今シーズンも1部リーグへの昇格は絶望的かと思われる窮地に追い込まれていた。

 しかし……。結果から言えば鎌倉インテルは奇跡を起こし、神奈川県社会人リーグ1部昇格に望みをつないだ。

 神がかり的な大逆転劇で1部リーグ昇格決定戦進出を決めた「奇跡の一日」を中心に、鎌倉インテル3年目のシーズンのここまでを振り返る。

デーゲームで起きた一つ目の奇跡

 新型コロナウイルスの感染拡大は、もちろん神奈川県社会人リーグにも大きな影響を及ぼした。開幕時期は例年よりも約5カ月遅れ、鎌倉インテルが戦う2部リーグは9月にスタート。レギュレーションも例年とは異なり、計28チームを4つのブロックに分けて各7チームの総当たりで行われることとなった。各ブロック1位の4チームが1部リーグ昇格2枠を争う。つまり、まずはブロック1位にならなければ昇格の目はない。

 鎌倉インテルは第1節で平塚FCに2-1、第2節でFC ASAHIに2-0と開幕連勝を飾ったが、首位攻防戦となった第3節のFCコラソン・プリンシパルとの大一番で1-2と逆転負け。各チーム6試合という短期決戦だけに、あまりにも痛く大きな黒星だった。案の定、首位のFCコラソン・プリンシパルとの勝ち点差はその後も埋まらず、鎌倉インテルは首位と勝ち点差3の2位で最終節を迎えた。

FCコラソン・プリンシパルとの上位直接対決は1-2の逆転負けを喫する 【Kazuki Okamoto (ONELIFE)】

 鎌倉インテルが逆転で1部リーグ昇格決定戦進出を果すには、まずは全勝で首位に立つFCコラソン・プリンシパルが最終戦に敗れなければならない。他力である上に得失点差にも8点という大きなビハインドがあり、常識的に考えれば事実上、鎌倉インテルが逆転で首位の座を奪うことは不可能に近かった。

 11月22日の最終節、先に試合を行ったのは首位のFCコラソン・プリンシパルだった。正午過ぎにキックオフされた試合は開始直後にFCコラソン・プリンシパルが先制。鎌倉インテルはさらに絶望的な状況に追い込まれてしまう。しかし、この時点で5位に沈んでいた対戦相手の南FCが健闘して前半のうちに同点とすると、鎌倉インテルにとっての「終戦」が近づいてきた試合終了間際の87分に南FCに劇的な逆転ゴールが生まれた。

 鎌倉インテルは奇跡の昇格決定戦進出に向けて、首の皮一枚つながった状態でその夜の最終戦を迎えることになった。

昇格決定戦進出の条件は「8点差以上での勝利」

 鎌倉インテルは第5節までの5試合で総得点8。3点以上を挙げた試合は一つもなかった。最終戦の相手である大和Sマテウスは最下位に沈むチームであるとはいえ、鎌倉インテルが逆転でブロック優勝を果たす条件である「8点差以上での勝利」は現実的なものではないように思われた。

 それでも、今季からチームを率いている武田航平監督は「首位が敗れることを信じて、大量得点を挙げる準備をしていた」と、わずかな可能性に賭けていた。シンガポール在住のクラブ代表・四方健太郎は試合前、武田監督に対して「前半20分までに3点とって、早い段階で相手チームの戦意を喪失させること」と半ば無茶なリクエストをしたという。首の皮一枚つながった状態のチャンスを活かすには、とにかく攻め続けるしか選択肢はなかった。

今季からチームを率いる武田航平監督 【Kazuki Okamoto (ONELIFE)】

 19時にキックオフされた試合は開始早々の5分、鎌倉インテルの攻撃の核を担うMF渡邊純平が幸先よく先制のゴールを決める。その後、しばらく追加点が奪えないまま時間が流れたが、23分、27分とエースの藤田航規が連続ゴールして3-0。四方のリクエストだった「前半20分までに3点」に近いペースで得点を重ねると、さらに34分、44分にも追加点が生まれる。思惑通りに相手の戦意を喪失させられた面もあったのか、試合は次第に鎌倉インテルのワンサイドゲームとなっていった。

MF渡邊純平のゴールで鎌倉インテルが開始5分で先制点を挙げる 【Kazuki Okamoto (ONELIFE)】

5-0という理想的なスコアでハーフタイムを迎え、「奇跡」が現実味を帯びてくる。それでもまだ攻撃の手を緩めるわけにはいかない鎌倉インテルは、後半のスタートから攻撃陣に3人のフレッシュな選手を投入した。その一人である水島利於が48分に6点目を決めると、60分に7点目、そしてついにノルマの8点目となるゴールが65分に生まれた。さらに、その1分後には決定的な9点目もあっさりと決まり、終わってみれば11-0というスコアでの大勝となった。

後半からMF大澤健太、MF増田幸輝、MF水島利於を投入し、さらに攻撃の手を強める 【Kazuki Okamoto (ONELIFE)】

 コロナ禍の特別規定により無観客の会場に、選手、スタッフたちの喜びの輪が生まれる。その表情には、自分たちが成し遂げたことがまだ信じられないような驚きの感情も混じっているようだった。21時、鎌倉インテルの「奇跡の一日」は幕を下ろした。

1部リーグ昇格へ、運命の決定戦は12月20日

【Kazuki Okamoto (ONELIFE)】

 徹頭徹尾国際化を意識したサッカークラブーー。

 鎌倉インターナショナルFCというクラブ名の通り、これが創設時からクラブが掲げているコンセプトだ。初年度は代表の四方の拠点であるシンガポール、2年目の昨季はタイと、県リーグのクラブとしては異例の海外遠征を敢行。すでに鎌倉インテルから海外のクラブへと羽ばたいていった選手たちも複数いる。

 神奈川県下ではサッカー文化が根付いていない地ともいえる鎌倉市に芝生のグラウンドをつくり、名実ともにホームタウンに愛されるクラブとなる。その上で、サッカーやスポーツの枠を超えて多様な人々が集い、グローバル教育や国際ビジネス、国際協力といった普遍的な新しい価値を生み出す「ハブ」を古都・鎌倉につくり上げる。それが鎌倉インターナショナルFCが未来に描く大きなビジョンだ。

 その夢の始まりとして「J8」に相当する神奈川県社会人リーグ2部を戦っている現在。創設4年目となる来シーズンは、アルゼンチンの監督養成学校で学んだ河内一馬氏を監督兼クラブのブランディング責任者として招聘し、世界レベルのブランディング構築を進めていく。大きなビジョンの実現に一歩でも近づくため、新たな挑戦はひとつでも上のステージでスタートさせたいところだ。

 奇跡的な大逆転劇によって昇格決定戦進出は果たしたものの、3年目の鎌倉インテルはまだ何も成し遂げてはいない。「奇跡の一日」を、1部リーグ昇格につなげることができるのか。運命の昇格決定戦は12月20日、神奈川県内の会場で無観客、非公開で行われる予定となっている。



文・本多辰成
1979年生まれ。静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て、2011年に独立。2017年までの6年間はバンコクを拠点に取材活動を行っていた。その後、日本に拠点を移してライター・編集者として活動、現在もタイを中心とするアジアでの取材活動を続けている。タイサッカー専門のウェブマガジン「フットボールタイランド」を配信中。
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著者プロフィール

鎌倉インターナショナルFC(通称:鎌倉インテル)は、世界で最もグローバルなスポーツであるサッカーを通じて未来の日本を国際化していくため、2018年に設立された新しいサッカークラブです。現在は神奈川県社会人リーグに所属していますが、プロサッカークラブ(Jリーグ参入)、そして世界を目指して活動をしています。『CLUB WITHOUT BORDERS』をビジョンに掲げ、日本と世界を隔てる国境をはじめ、性別、年齢、分野、そして限界、あらゆる“BORDER”(境界線)をもたないサッカークラブを目指しています。

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