J2ではV・ファーレン長崎が初優勝、Jリーグマネジメントカップ2019

チーム・協会

【© V-VAREN NAGASAKI】

勝敗で決まるリーグ優勝とは別に、ビジネスマネジメント(経営)面で“優勝”を争うJリーグマネジメントカップ2019。J2優勝クラブは長崎となりました。

Jリーグマネジメントカップ2019は、Jリーグから公表されている各クラブの財務情報を中心にビジネスマネジメントにおいて最も重要なテーマである「マーケティング」「経営効率」「経営戦略」「財務状況」の4つの視点から合計13の指標を設定しそれぞれの評価を集計した結果をまとめています。

今回長崎は、経営効率分野では12位と振るいませんでしたが、マーケティング分野、財務状況分野で4位、経営戦略分野では1位タイとなり、僅差ではありましたが初の優勝となりました。前シーズンはフィールドマネジメント面で初めてのJ1昇格を成し遂げたことで、ビジネスマネジメントの側面への好影響がありました。一転して2019年シーズンは、J2降格による悪影響をいかに最小限にとどめ、安定した財務基盤を維持できるかの勝負となりましたが、見事そのチャレンジでは結果を出すことができました。

Jリーグマネジメントカップ 2019 J2ランキング 【(c) 2020. For information, contact Deloitte Tohmatsu Financial Advisory LLC.】

今回はJリーグマネジメントカップ2019からJ2の結果の中で注目のポイントを特徴的なクラブの動向とともに取り上げます。

平均入場者数:最多は新潟、ユニークなBM施策が奏功した愛媛

平均入場者数最多のクラブは昨年に続き、新潟でした。J2全体では平均入場者数は増加、ディビジョン全体として集客が好調なシーズンでしたが、クラブごと動向を見た場合では、競技(フィールドマネジメント)面の結果の影響が大きく、本指標が減少した8クラブのうち7クラブはリーグ順位を落としたクラブとなりました。その中でも唯一、愛媛だけは競技面の順位が低下したにもかかわらず、本指標が上昇しています。これは、監督や選手による街頭でのPRなど地道な集客活動に加え、勝った喜びを観客と分かち合う「勝ったら餅まき」や、勝てなかった場合には景品が当たる「ごめんねガラポン」を開催するなど、ユニークなBM施策が効果的であったものと推察されます。

客単価 チケット価格設定が奏功した山口

最も客単価が高かったのは山口の2,856円、逆に最も低かったのは琉球の856円で、約3.3倍の差がありました。特にチケット単価での差は大きく、山口と琉球では約4倍の差があります。この差の原因は、両クラブのチケット価格設定戦略の差であると考えられます。山口は2,000円から4,000円まで7種類設定されているのに対し、琉球は1,300円・1,500円の2種類となっています。
「入場者数×単価」の総和の最大化を見据え、カスタマリレーションシップマネジメント(CRM)戦略などにより観戦者のニーズに対応する席種とそれに応じた価格帯を適切に設定するビジネスマネジメント施策を実施し、単価の最大化を図ることが重要と考えられます。

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勝点1あたりチーム人件費:チーム人件費を効率的にFM面の結果につなげた水戸

水戸は、前年比+46百万円(+16.7%)の321百万円をチーム人件費に割きましたが、勝点においても前年比+13とし、FM面で10位から7位へと着実に順位を向上させました。チーム人件費を効率的にFM面の結果に結び付けていることがうかがえます。

人件費投資は単年では必ずしもフィールドマネジメント(FM)面への成果が出ないケースもあります。チームへの投資という重要なビジネスマネジメント(BM)施策に関わる経営判断の効果を検証し続ける姿勢が重要です。そういった意味で本指標は、クラブにおけるチームへの投資とその効果を測るための一つのモノサシとして中長期的に追い続けるべきものであるといえます。

売上高・チーム人件費率:勝負の人件費率でJ1復帰を果たした柏

2019年シーズンにおけるJ2の平均は前年比+0.9P(+2.1%)の44.2%でした。全22クラブのうち19クラブが50%以下に抑えられており、概ね健全な状態であると捉えることができます。
その中で目を引くのが、売上高・チーム人件費率を昨シーズンの67.6%から93.6%へと26.0Pも増加させ、本指標では最下位となる柏です。柏は昨シーズン、FM面でJ2に降格したため、売上高が大幅減となることが見込まれる状況にありながらも、何としても1年でJ1に復帰するという強い意志を貫いて逆にチーム人件費を134百万円増加させて、見事にその目標を達成しています。
一方で柏はその積極投資により、2019年シーズン1年でほぼ全ての内部留保を使い切っており、薄氷の勝利だったともいえます。必要なタイミングで打つべき手を打つというビジネスマネジメント(BM)施策も重要な経営判断の一つといえますが、Jクラブが社会的公器であることに鑑みれば、財政的な手当ては急務になると考えられます。

グッズ関連利益額:記念グッズの販売に機を逃さない施策が必要

2019年シーズンにおけるJ2の平均は、前年比▲4百万円(▲14.6%)の24百万円でした。グッズ利益において特筆すべきは記念グッズの販売です。影響が翌期にずれ込む影響はあれど、J1に昇格を決めた柏と横浜FCの利益額はJ2平均を下回っており、フィールドマネジメント(FM)面での成功をタイムリーにビジネスマネジメント(BM)面の成果に結び付けられていない可能性があります。ファン・サポーターの記念グッズの購買意欲はイベント発生から数日で等比級数的に減少するといわれており、機を逃さないBM施策が重要です。

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売上高:収入の過半はスポンサー収入

2019年シーズンにおけるJ2の平均は前年比+114百万円(+7.4%)の1,655百万円でした。内訳を見るとスポンサー収入(+118百万円)が特に増加している一方、他の項目は前年同等水準となり、スポンサー収入の構成比が高まっています。スポンサー収入については、J2在籍22クラブのうち15クラブで増加しており、J2全体の収入内訳の過半を占める結果となっています。J1平均ではスポンサー収入の構成比率が44.7%であることに鑑みると、J2はよりスポンサー依存傾向が高い状況にあるといえます。
多くのスポンサー収入を獲得できていること自体は大いに評価されるべきものですが、さらなる成長のためには、BM施策としてその原資を「試合」やその他のクラブコンテンツの価値の増加に再投資できるかどうかにかかっていると考えられます。

自己資本比率:10%未満のクラブは4クラブ

2019年シーズンにおけるJ2の平均は、前年比▲5.1P(▲13.5%)の33.0%でした。トップは昨シーズンに続き町田の87.2%、最下位は柏の0.6%となっています。自己資本比率が10%未満のクラブにおいては内部留保を増やすくらいならチーム強化に資金を使うべきというファン・サポーターからの強い要望があったとしても、現在の先の見えない経営環境を勘案し、チームの強化(FM面)とクラブの財務的安定(BM面)のバランスを適切にコントロールすることが特に重要になります。

このように各指標を掘り下げると、各クラブチームのビジネスマネジメントの側面における取り組み、その効果、あるいは課題が明らかになってきます。気になるクラブのポジションや他の指標における注目点などはJリーグマネジメントカップ2019でご確認ください。


次回は引き続き、Jリーグマネジメントカップより、J3の結果についてレポートします。
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著者プロフィール

デロイト トーマツ グループは、財務会計、戦略、マーケティング、業務改革など、あらゆる分野のプロフェッショナルを擁し、スポーツビジネス領域におけるグローバルでの豊富な知見を活かしながら、全面的に事業支援を行う体制を整えています。またコンサルティング事業の他、国内外のスポーツ関連メディアへの記事寄稿などを通し、スポーツ業界全体への貢献も積極的に行っています。

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