「43歳で新たなスタイルに挑戦中。“水戸のレジェンド”本間幸司は進化し続ける」

水戸ホーリーホック
チーム・協会

【©︎MITO HOLLYHOCK】

自粛期間を「有効に活用しよう」とポジティブ思考

6月9日、トレーニング再開後初の実戦として実施された紅白戦ならぬ「青白戦」。白チームの前に立ちはだかったのが、本間幸司だった。至近距離からのシュートを防ぎ、クロスに対して飛び出して対応する場面と我慢をする場面を冷静に判断して対応。1点のビハインドを追う白チームの猛攻をしのぎ切り、青チームが勝利をおさめた。試合終了と同時に本間は両手で軽くガッツポーズを見せた。

「立場的に僕は(ポジションを)奪い取らないといけない状況にあります。中断期間中、ほとんど休まずに体と向き合ってトレーニングしてきました。今日の青白戦でその成果が出ていると実感しました」。充実した表情で振り返った。

リーグが中断してからすでに3カ月以上が経つ。チームも1カ月以上の活動停止を強いられた。それだけ長い期間、試合だけでなく、練習から離れるのは子供の頃からサッカーをしてきた選手たちにとってはじめての経験だろう。若手でも試合勘やコンディションを取り戻すのが難しく、ベテランの場合、さらに大きなリスクが伴う。本間にも「一度(コンディションを)落としたら、戻すのが大変」という不安がなかったわけではない。しかし、状況をネガティブにとらえることはしなかった。「この期間を有効に活用しよう」というポジティブな思考を持って、1日1日を大切に過ごしてきたのだ。

【©︎MITO HOLLYHOCK】

今は目指す場所が見えている

高い身体能力を生かしたシュートストップを持ち味としてきた本間だが、ここ数年プレースタイルを変えるためのトライをしてきた。
「試合に出られていない状況が続いていたので、今までの自分のプレースタイルを捨てて、総合的な能力を上げようと思っているんです。僕は体の強さや身体能力が武器なのですが、そこを頼りにしすぎず、GKとしてのトータルのスキルを見直して、高めていこうとしているところです」
この中断期間中も自宅の庭を利用してステップのトレーニングを積み、さらには体のバランスを整えることにも取り組んだ。そして、近年採り入れているライフキネティックにも力を入れた。「できることは限られていましたが、やれることはすべてやりました」と自負するように、新たなスタイルへの熟成をはかる貴重な時間を過ごすことができたのだ。

青白戦で最も手ごたえを感じたのが、クロスの対応であった。積極的に飛び出すだけでなく、ファーサイドに流れるボールにも我慢強く対応し、そこから放たれたシュートをブロッキングで止めてみせた。一度でなく、二度同じ形で防いだことに「自信を深めることができた」という。「自分がトライしてきたことをプレーで出せた。それがよかった」と確かな手ごたえを口にした。

40歳を越えて現役を続けるだけでも驚異的なことなのに、ここからさらにプレースタイルを変えようとしている事実に驚かずにいられない。そして、その挑戦が決して容易ではないことは言うまでもない。だが、本間は勇気をもって踏み出した。
本間の背中を押したのは、2018年に発売された自身のドキュメンタリーDVDの中で出演者が語ったある言葉だった。

「本間幸司なら、45歳でフル出場できる」

「その言葉がすごく印象に残っているんですよね」と本間は話す。
「確かにそれまで、口では『なりたい』と言っても新しい自分になるためのトライをしていなかった。でも、今は目指す場所が見えてきている。それがすごく大きい。だから、そこに向かっていろんなことにトライできている」
43歳を迎えても、まだ見ぬ完成形に向けて、挑戦を続けているのだ。

【©︎MITO HOLLYHOCK】

「ピッチでプレーしている姿を見せたい」

そして、もう一つ、本間には大きなモチベーションがある。それはサポーターに進化した姿を見せるということ。
水戸に在籍して22年目。ピッチの中だけでなく、東日本大震災や水害があった時には自ら志願して地域のボランティア活動を行うなど、ピッチ外でもファン・サポーター、地域と寄り添って歩んできた。しかし、このコロナ禍においては試合を見せることだけでなく、サポーターや地域の方と接することすらできず、「みんなのために何もできない自分の無力さを痛感した」と悔しそうな表情を見せる。

だからこそ、「リーグが再開したら、ピッチでプレーしている姿を見せたい」と語気を強めた。
「リーグが再開したら僕やクラブのことを応援してくれる人、関わってきた人たちにプレーで感謝の気持ちを伝えたい。そのためにもゴールマウスに立たないといけない。20年以上水戸でプレーしてきて、震災も含めていろんなことを体験してきたので、今回も先頭に立って地域のために取り組んでいきたいと思っていますが、とにかく今はサッカー選手としてプレーを見せたい。その思いが強いので、結構ハードなトレーニングをしてきました」

リーグ再開後、新しい本間幸司を、そして、より完成形へ近づいた本間幸司を見ることができる。さらなる可能性を信じて突き進む「水戸のレジェンド」から、そんな期待感が満ち溢れている。

(佐藤拓也)
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著者プロフィール

Jリーグ所属の水戸ホーリーホックの公式アカウントです。 1994年にサッカークラブFC水戸として発足。1997年にプリマハムFC土浦と合併し、チーム名を水戸ホーリーホックと改称。2000年にJリーグ入会を果たした。ホーリーホックとは、英語で「葵」を意味。徳川御三家の一つである水戸藩の家紋(葵)から引用したもので、誰からも愛され親しまれ、そして強固な意志を持ったチームになることを目標にしている。

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