屈辱と歓喜 ロッテで語り継がれる2つの七夕

千葉ロッテマリーンズ
チーム・協会

【現役時代の清水将海氏】

 7月7日。千葉ロッテマリーンズの清水将海バッテリーコーチには2つの思い出がある。一つは屈辱。そしてもう一つは喜びだ。屈辱はプロ野球ファンが良く知る98年の18連敗である。6月13日のオリックス戦(当時千葉マリン)から始まり、7月8日のオリックス戦(当時 GS神戸)まで続いた。ちなにこの期間、雨天中止が1度(6月14日の千葉マリンでのオリックス戦)。引き分けが1度ある(6月30日の福井での西武戦)。

 「オリックス戦で始まり、オリックス戦で終わった。捕手としてもいつも打たれるのではないかとビクビクしながら投手をリードしていた。恐怖感があった。負のオーラがあって、勝てる気がしなかった。勝っていても八回、九回で逆転されるのではないかと感じてしまっていた」

 清水は右肩を故障し、この年の一軍初出場はチームが4連敗で迎えた6月19日の日本ハム戦(東京D)だった。この試合で忘れられないのはスタメン出場の2打席目で顔面に死球を食らい、途中交代をしたことだ。顔は大きく腫れていたが抹消されることなく一軍ベンチ入りを続けた。チームの窮地に弱音は吐かなかった。今でも印象深いのはファンの応援だった。連敗が続く中で必死の応援は続いた。

 「ファンの応援が凄かった。正直、暴動を起こされてもおかしくないような試合展開の日々。それでも、いつも『頑張れよ』、『今日は期待しているよ』と励まし歌い続けてくれた。ファンとの一体感を強く感じた」
 
 あの頃のチームメートと再会をすると気付けば当時の話をしてしまう。それぐらい記憶に深く刻まれている。ただ、それは「恥ずかしい事。負け続けるのは悔しいし屈辱的だった」と語気を強める。そして「一人一人の意識が低かったと思う」と反省する。

 そして今でもファンの間で語り継がれる7月7日、いわゆる「七夕の悲劇」を迎える。16連敗の状況で始まった7月7日オリックス戦(GS神戸)。2点リードの九回二死一塁でこの日、そこまで無安打のハービー、プリアム外野手に同点2ランを打たれ同点に追いつかれる。その瞬間を清水はベンチで見ていた。追い込んで投じた先発黒木知宏投手の139球目。あと1球だった。連敗を止めて欲しいと誰もが願う中で、ボールはレフトスタンドに吸い込まれていった。打球は無情にもマリーンズファンで埋まるスタンドへと消えていった。そして清水は延長からマスクを被ることになるが、延長十二回にサヨナラ負けを喫する。サヨナラ満塁本塁打。九回二死のあと1ストライクから同点に追いつかれたゲームはあまりにも悲惨な形で幕を閉じる。そしてチームは2日後に連敗を止める。

 「勝つためにもっともっと努力しなくてはいけなかった。つねに意識を高くもってワンプレーを大事にしていかなくてはいけない。あれからずっとそれは思っている。ああいう経験は二度としたくはない。してはいけない。今はコーチとして若い選手に自戒の念を込めて指導をしている。若い子たちにあんな想いは絶対にさせたくないからね」

 悪夢の98年の七夕。そしてもう一つの忘れられない喜びの七夕は翌年の事になる。99年7月7日、東京ドームでの日本ハム戦。清水は8番捕手としてスタメン出場し2点リードの二回に貴重な2点適時打を放つ。試合は小宮山悟投手、河本育之投手、ブライアン・ウォーレン投手のリレーで5対4で勝利。マリーンズは首位に立った。

 「今夜だけこの喜びに浸って、明日からまたやっていこう!」。

 チームを率いた山本功児監督が試合後に選手たちに送った檄が忘れられない。
 
 月日は流れた。2020年。新型コロナウィルス感染予防の観点からいまだチーム練習も出来ない日々が続いている。ただ、そんなシーズンだからこそファンのために勝ちたいと想う。
 
 「99年は一瞬の首位だったけど、ファンの人がものすごく喜んでくれたのをよく覚えている。スタンドの様子を見て、一位って、やっぱりいいものだなあと思った。シーズンを一位で駆け抜けられるように選手たちには必死にやらせたい。マリーンズファンに喜んでもらいたい」
 
 98年に味わった屈辱。そして99年にひと時の事ではあったが歓喜した首位。そのどちらも最初に思い出すのはスタンドのファンの姿だ。魂の応援。勝って共に喜んだファンの存在。困難の時を迎えた今。いつ始まるか分からないシーズンにあってマリーンズを支えるのはファンの存在。苦難を乗り越えて今年こそシーズンを1位で突破して優勝をファンにプレゼントしたい。我慢の先に栄光が待っていると清水将海コーチは信じている。

文 千葉ロッテマリーンズ広報 梶原紀章
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