WALK TO THE DREAM 果てしなき夢へ 〜いわきFCの大いなる野望 第2回「魂の息吹くフットボール」の本質とは。

いわきFC
チーム・協会

【©IWAKI FC】

第2回 いわきFC 5つのストラテジー(1) 「魂の息吹くフットボール」の本質とは。

 2016年に誕生し、今シーズンは東北社会人1部リーグを制してJFLへの昇格を見すえるサッカークラブ「いわきFC」。チームは「スポーツを通じて社会価値を創造する」というビジョンを実現するため、以下の「5つのストラテジー」を掲げている。

(1)「魂の息吹くフットボール」で熱狂空間を創出する
(2) 世界基準のチームビルディング
(3) 未来を担う人材の育成
(4) 地域との一体化
(5) スポーツファシリティの運営・整備

この中から今回は、いわきFCが展開する「魂の息吹くフットボール」について、大倉智総監督の談話とともに紹介していく。

「全社」タイトルへのこだわり。

2019年のいわきFCの目標は、JFL(日本フットボールリーグ)昇格である。

 10月6日、東北社会人サッカーリーグ1部・第18節。いわきFCはFCガンジュ岩手をホームに迎え、4対0で圧勝。リーグ優勝を決めるとともに、この11月に行われる、JFLへの昇格をかけた「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ2019」(以下・地域CL)への出場を確定させた。

 この地域CLの前哨戦となるのが、全国の地域リーグや都道府県リーグ所属のアマチュアクラブのナンバーワンを決めるトーナメント「第55回全国社会人サッカー選手権大会」(全社)である。

 いわきFCはチームがスタートした2016年以来、この大会への出場を続けてきた。初参加となった2016年はベスト8、翌2017年は2回戦敗退に終わり、上位進出はならず。2018年は準決勝で松江シティFCに2対0で敗退。3位決定戦には完勝したものの、目標とする優勝には届かなかった。

 地域CLへの出場が決まった今年も、いわきFCはこの大会での勝ちにこだわる。この大会の特徴が、5日間で最大5試合というハードスケジュール。これを経験することが、地域CLに向けた貴重な財産となるからだ。そして、チームの完成度を図る格好の機会にもなるだろう。

 今年の全社は10月12日〜16日に鹿児島県で開催される。いわきFCの初戦の相手は、ブリオベッカ浦安。かつてJFLに所属していたこともあり、相手に不足はない。3年続けて逃してきた全社のタイトルを手土産に、地域CLを勝ってJFL昇格を果たしたい。

試合とは「興行」である。

 ただしいわきFCが、対戦相手に合わせて戦い方を変えることはない。大きな大会の決勝でも小さなトレーニングマッチでも不変のプレースタイル。チームはそれを「魂の息吹くフットボール」と呼ぶ。

「フットボールの本質とは、ゴールを奪い、ゴールを取られないこと。パスを何本通すか、というゲームではありません。このことを踏まえ、チーム発足時から掲げるスタイルが『魂の息吹くフットボール』。鍛え抜かれたアスリート達がフィジカルの強さを前面に押し出し、90分間足を止めることなく前へ前へとスプリントし、全力でボールを奪い、ゴールを決める。そんな、観る者をワクワクドキドキさせるプレースタイルを目指します」(大倉智総監督)

【©IWAKI FC】

 このコンセプトはなぜ生まれたのか。前提となるポイントが二つある。まず一つ目は「プロスポーツチームの試合とは、興行である」ということだ。

「興行における収益の基本は、お客様からいただく入場料収入。これが、試合をする選手が手にする対価(報酬)となります。だから、見に来てくださったお客様に『また見たい』と思ってもらうこと。これが興行の本質。勝ち負けよりも大切なものがあるし、むしろ大事なのは負け方。だからいわきFCはどんな大会であっても、1点を取って逃げるようなサッカーや、相手の出方をうかがうダラけた試合はしません。

『魂の息吹くフットボール』とは、お金を払って試合=興行を見に来てくれた方々に、いわきFCが提供する「商品」です。仮にチケット平均単価5,000円×入場者数を30,000人×年間ホームゲーム20試合とすると、魂の息吹くフットボールとは、30億円を稼ぎ出す商品ということです。もちろん、まだまだ遠い数字ですが」

「作り手がいいと思うものを作る」プロダクトアウトではなく「顧客の声を重視し、ニーズを満たすものを作る」マーケットインの観点から「魂の息吹くフットボールという商品」を提供する。これが、いわきFCのプレーの根幹にある考え方だ。

【©IWAKI FC】

サッカーはグローバルなスポーツ。閉じたものでは決してない。

 そして二つ目のポイントが、チームの掲げる「グローバルスタンダード」というバリューだ。

「魂の息吹くフットボール」というプレースタイルは、世界のサッカーのトレンドを意識して生まれたものでもある。今やヨーロッパを中心に、トップクラスのチームのサッカーは明確に高速化。フィジカルに優れた選手達が前へ前へと走り、少ないパス本数でゴールを陥れる傾向が顕著だ。

例えば昨年のロシアW杯(グループ予選)では、約40%のゴールがボールを奪ってから10秒未満で決まっている。2006年のドイツ大会では同様のデータが約19%だった(データスタジアム調べ)ことからも、はっきりとわかる。

 そもそもサッカーとは、ボールを蹴ってゴールに入れるゲーム。では、ボールをゴールに入れるチャンスを増やすにはどうするか。一番の方法は、相手ゴールに近いゾーンでボールを奪うこと。そこから得点の確率を上げるには、相手ペナルティエリアにより多くの選手を侵入させることだ。

 そのため、いわきFCの選手達はボールを奪ったら、後ろにいる選手はリスク管理をしつつ、チャンスと思えば積極的に前へスプリント。ボールの保持者をどんどん追い越して攻撃参加する。FWだろうとDFだろうと、機をみて前に出るのは同じだ。そしてゴール前で数的優位の状況を作り、シュートを打ち、ゴールを奪う。

【©IWAKI FC】

 このプレースタイルを実現するため、チームが定めた指標が「5秒/8秒ルール」だ。ボールを持った相手選手に積極的にプレスをかけ、5秒以内で奪い取る。そして、8秒以内にシュートまで持っていく。そのためには切り替えの速さとスプリント能力が不可欠。だからこそ、選手達はチームの立ち上げ当初から意欲的にストレングストレーニングに取り組み、より速く、より強く、を目指してきた(鍛え上げた肉体は目指すサッカーを実現するためのものであり、観客をワクワクさせるエンタメ要素でもある)。

 そんないわきFCのプレースタイルは、Jリーグのサッカーに対するアンチテーゼでもある。

「多くのJリーグの試合では、相手のミスを待つ傾向がある。ボール保持者に対し、バックステップして自陣に戻って対応。ボールを奪った瞬間、後ろに戻してひと呼吸。そんなスタイルは、世界のサッカーの流れから乖離しています。

 この現実を『文化の違い』などという言葉で片づけてはいけない。なぜなら、サッカーはグローバルなスポーツ。閉じたものでは決してないからです。僕らはサッカーのあるべき姿を追求し、30億円を稼ぐ『魂の息吹くフットボール』という商品を創るために、チームを進化させていきます」

 常にグローバルな目線で自分達のプレースタイルを俯瞰し、「マーケットイン」の観点から「魂の息吹くフットボール」という「商品」を提供する。そして観客に感動を与え、スタジアムに巨大な熱狂を作り出す。どんな舞台でどんなチームが相手でも、常に真っ向勝負するいわきFC。彼らが目指すのは、このサイクルの構築である。

【©IWAKI FC】

文・前田成彦
編集者。いわきFC関連の執筆の他、広報誌『Dome Journal』(http://www.domecorp.com/journal/)、スポーツニュートリションブランドDNSのオウンドメディア『Desire To Evolution』(http://www.dnszone.jp/sp/sp/magazine/)の編集長を務める。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

「いわき市を東北一の都市にする」ことをミッションに掲げ、東北社会人サッカーリーグ1部を戦う「いわきFC」の公式アカウントです。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント