選手の安全を守る白バイ隊員に運営管理車のドライバー 箱根駅伝を支える裏方たちの物語

柴山高宏(スリーライト)
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提供:トヨタ自動車

運営管理車のドライバーの選定基準とは

トヨタ東京教育センターの眞田雅英(左)と田邉功児取締役 東京事業所長 【撮影:熊谷仁男】

 箱根駅伝は白バイ、パトカーなどの警察関係車両、テレビ・ラジオの中継車両以外にも、大会本部車、運営管理車、緊急対応車、医務車といった大会関係車両が大会の運営を支え、選手の安全を守っている。11年の第87回大会以降、大会関係車両は箱根駅伝の協賛社であるトヨタ自動車が全て提供している。

 大会関係車両のなかでファンに最も馴染みが深いのは、運営管理車だろう。大学ごとに1台配備され、ドライバー、審判員、走路管理員に加え、各大学から主に監督と学生マネージャーの長にあたる主務の計5人が乗り込み、後方から選手を見守っている。監督が選手に声掛けを行うイメージが強いかもしれないが、運営管理車はあくまで競技運営に係わる車両であり、選手の安全を守るための車両だ。

 そして運営管理車をはじめとする大会関係車両のドライバーは、トヨタ自動車直営の教習所「トヨタドライビングスクール」の教官が務めていることは、ご存知だろうか。「ドライバーの人選は毎年、箱根駅伝の予選会が終了する10月中旬に行っている。経験や実績など、さまざまな基準をクリアした教官に依頼している」と説明するのは、トヨタ自動車が箱根駅伝に車両を提供し始めた11年から、14年連続で大会関係車両を運転している田邉功児だ。

取材に応じる田邉功児 【撮影:熊谷仁男】

「私がはじめて運転した大会関係車両は運営管理車。交通規制がかかっている中、同乗している審判員と走路管理員の指示に従って運転してくださいとは言われたが、沿道にはたくさんの観客がいて、目の前には守るべき選手がいる。非常に気を遣ったし、復路のフィニッシュ地点に着いたときは相当な疲れがあったが、それ以上に貴重な経験をさせてもらったという思いの方が強かった」(田邉)

 大会関係車両のドライバーは、毎年11月に行う「試走会」に参加。大手町のスタート地点から、箱根・芦ノ湖駐車場入口のフィニッシュ地点まで実際に運転し、コースを覚える。そして、12月に全ドライバーを集めてミーティングを行い、田邉がコースの変更点や注意事項などをレクチャーする。

この時点で運営管理車のドライバーは、担当する大学が決定している。ちなみに、出身大学の運営管理車のドライバーを務めることと、2年連続で同じ大学の運営管理車のドライバーになることは、トヨタ自動車の社内規定で禁止されている。

山と“ごぼう抜き”には要注意

 1月2日の往路当日。ドライバーはホテルで朝食をとり、5時30分には大会関係車両が停まる駐車場へ向かう。ここでドライバーは運転する車両の最終チェックを行い、最後の打ち合わせを行う。その後、同乗する審判員、走路管理員らと顔合わせを行い、8時のスタートを迎える。乗車位置は決まっており、助手席に監督、その後ろに主務と審判員、最後列に走路管理員が座ることになる。

「選手に合わせて時速20km前後のスピードで、100km以上の距離を運転することなんて、普段はまずあり得ない。いくら交通規制がかかっているとはいえ、ペット連れの観客が路上にスッと出てしまうようなリスクも考えられる。たとえこちらに過失がなくても、絶対に交通事故を起こしてはならない。それがプロドライバーである我々の責務だ」(田邉)

 花の2区の名物といえば“ごぼう抜き”。時代を代表するエースランナーが猛然と駆け抜け、次々に順位を上げていく様は爽快だが、運営管理車の運転には注意が必要だ。

「選手はスイスイ追い抜いていくが、運営管理車が前方に出られるタイミングは限られているので、タイムリーに追いかけることはできない。慌てることなく、順位がある程度安定したタイミングを見計らって、前に出るようにしている」。そう語るのは、2016年から大会関係車両の運転を行っている眞田雅英だ。

取材に応じる眞田雅英 【撮影:熊谷仁男】

 複数の選手が競っているときの運転には、細心の注意を払う。

「混戦状態で監督の声掛け地点を迎えたときは、車両の入れ替えを慎重に行っている。我々は同じ会社のワンチームという意識を持って運営管理車の運転を行っているので、パッシングをするなどうまく意思疎通を図るようにしている」(田邉)

「選手との距離を常に一定に保ち、選手の安全を守ることが我々の使命。たとえ同乗している審判員、走路管理員から指示があっても、選手に危険が及ぶ可能性があれば、そのことをしっかり伝えている」(眞田)

 山上りの5区は運営管理車のドライバーにとっても難所となる。コース自体が非常に狭い上に対向車が走っており、宮ノ下や富士屋ホテルの周辺にはたくさんの観客が集まる。追い抜きには細心の注意を払わなければならず、選手が後方から迫ってきたら、なるべく早いタイミングで回避して、選手の走路を妨害しないよう心掛けている。

「早朝の5時30分から準備を進め、4時間以上、選手の安全を守りながら運転してきたドライバーにとっては、5区は疲れが出てくるポイントになる。そのため、全ドライバーに注意を呼び掛けている」(田邉)

 現在は往路3区、復路8区にトイレ休憩ポイントが設けられている。このタイミングで全員が下車し、トイレに行ったり、身体を伸ばしたり、屈伸をするなどしてリフレッシュしている。

箱根駅伝を支える裏方の矜持

 運営管理車のドライバーは往路終了後、近くのホテルに移動してその日の疲れを癒し、翌日に向けたミーティングを行う。1月3日の復路では、7時前には現地に着いて運営管理車の暖気運転をして、降りた霜を払い、前日の汚れを落とすなどの準備を行う。

 復路は8時にスタートするが、運営管理車は山下り区間である6区では、選手の後方にはつかず、箱根湯本駅近くの箱根町役場の駐車場へ先に移動して、待機しておく。そして、山を下ってきた大学の運営管理車から順に、選手と合流し追走していく。

 往路、復路の運転にかける時間は、計11時間にも及ぶ。総走行距離は200kmをゆうに超える。決して楽な仕事ではないが、それでも箱根駅伝に携わることを望む社員が後を絶たないのは、100年を超える歴史を持つ学生スポーツである箱根駅伝の魅力と、それを支える裏方としての矜持がある。

「大ベテランの監督が、運営管理車の車内でぼそっとつぶやいた一言が忘れられない。『俺が選手たちに頑張ってもらいたいって思うのは、こいつらには将来があるからなんだ。就職するにせよ、実業団で競技を継続するにせよ、少しでもいい成績を残してもらうことで、将来のプラスにしてあげたいんだ。俺自身のことなんてどうでもいいんだよ』。厳しい言葉の裏には、選手のことを第一に思う熱い気持ちがある。本当に凄い監督だと思った」(田邉)

「子どもの頃から見てきた箱根駅伝。その大会の当日、現場に私がいて、選手とともに走ることができるのが嬉しくて仕方がない。私がこの仕事を担当するようになった16年以降、箱根駅伝は“観る”のではなく“参加する”大会なのだと意識が変わった。選手の安全を守り、箱根駅伝が無事に終わるよう、微力ながら協力していきたい」(眞田)

 来春の101回大会では、田邉は大会本部車を、眞田は運営管理車を運転する予定だ。2人は「本当はダメなんですけどね」と前置きをしながら、「復路終了後に感情移入して泣いてしまったことがある」と口を揃える。箱根駅伝を愛するトヨタドライビングスクールのプロドライバーが、選手の安全を支えている。

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