「それでも僕たちはプレーしなければならない」 不敗神話継続の久保が吐露した被災地への想い
ラ・リーガ第12節のセビージャ戦で見事な先制ゴールを決めた久保。勝利の立役者となり、この試合のMOMにも輝いたが、その胸中に宿っていた想いは…… 【Photo By Joaquin Corchero/Europa Press via Getty Images】
かつてない惨事にも中止は2試合のみ
11月3日、セビージャへ遠征し、敵地サンチェス・ピスファンでラ・リーガ第12節に臨んだレアル・ソシエダは、久保建英の先制点とミケル・オヤルサバルのPKによる追加点で2-0の勝利を収めた。
久保がゴールを決めれば、ラ・レアルは負けない――。2022年夏の加入以来続く神話は、この夜も途切れることはなかった(通算17勝1分け)。しかし、試合後のイマノル・アルグアシル監督は、グラウンド上で起きたことに対する論評や、殊勲者である久保への賛辞をほとんど口にしなかった。
現在、スペインのテレビは連日、洪水被害のニュース一色に染まっている。10月末、バレンシアを中心に、サラゴサ、アンダルシア、アンドレス・イニエスタの故郷であるアルバセーテといった街が、DANAと呼ばれるコールドドロップ(寒冷低気圧による気象現象)による集中豪雨と、それによって引き起こされた大洪水に見舞われた。その死者数はすでに200人を超え、行方不明者数は2,500人を数えてからさらに増え続ける一方だ。
国内の水害史上最大の惨事に際し、スペイン政府は10月29日から3日間、国喪に伏すことを発表した。
正直、現在のスペインはサッカーを楽しむような状況にない。しかし、ラ・リーガが1部リーグの第12節で開催中止を決めたのは、11月3日に予定されていたバレンシア対レアル・マドリー戦とビジャレアル対ラージョ・バジェカーノ戦の2試合のみ。すべての試合を中止にすべきだという国民の声が届くことはなかった。
久保も心を痛めた恩師モレーノの涙
オサスナを率いるモレーノ(左)は、久保がマジョルカでラ・リーガデビューを飾った当時の監督だ。故郷の惨状に嗚咽を漏らした恩師の姿は、「見ていて辛かった」 【Photo by Quality Sport Images/Getty Images】
「あそこはカオスだ。人々の想像を絶するほどの惨状が続いている。それなのに、そこにいる家族や仲間のところに飛んで行けないのは、本当に辛い」
こうした精神状態で試合の指揮を執る、あるいはプレーすることがいかに過酷なことか、画面を通してひしひしと伝わってきた。
私を含む多くのサッカー関係者やファンと同様に、この記者会見を見て心を痛めていたのが久保だった。セビージャ戦で得意の右サイドからのカットインプレーでゴラッソを叩き込み、チームに勝ち点3をもたらした後、彼はスペイン国内で放映権を持つ「MoviStar」のインタビューに答え、こう胸の内を明かしている。
「個人的に、ビセンテ・モレーノのことをとても心配している。彼は僕の監督だった人だ。とても良い監督だったし、彼の記者会見を見ていて辛かった」
そして、あらゆる監督や選手が抱えていたであろう想いを、こんな風に代弁している。
「日本にも数年前、似たような状況があった。僕がその状況を過ごしたわけではないけれど、バレンシアで命を失ったすべての人たち、今苦しんでいるすべての人たちのことを思い、辛く感じている。こういった試合はいつでも辛い。(試合前に)1分間の黙とうを捧げたところで、難しい現状に変わりはない。それでも僕たちはプレーしなければならない。両チームとも困難な状況の中で最善を尽くした」
ちなみに、第12節にオサスナはホームでバジャドリーを1-0で下し、モレーノはその足で被災地のマサナサに向かっている。そこにいる家族や苦しんでいる近隣の人たちに支援の手を差し伸べるために。