MLBポストシーズンレポート2024

嫌な流れを払拭し、ヤンキースの待つWSへと誘う――大谷翔平が珍しく自画自賛した打席とは?【NLCS第6戦】

丹羽政善

緊張感あふれるマナイアとの駆け引き

 話を試合に戻すと、六回の安打だけではなく、初回の大谷のヒットも、一気にムードを変えた。
 
 一回表、いきなりメッツに先制を許した。しかも、四球と失策が絡み、無駄な失点だった。大谷も、「嫌な流れだった」と振り返るほど。しかしその裏、先頭の打席に立った大谷は、ショーン・マナイアが2-2から投げた外角のシンカーを捉え、センター前へ。これで俄然、客席が覇気を取り戻した。

 大谷も珍しく、「いい打席だった」と自画自賛。

「前回も抑えられていた素晴らしい投手ではあるので、なかなか自分の思い通りの打席、チャンス自体が少ないんじゃないかと思っていた。チームとして流れを戻せるように仕事がしたかった」

 1死後、テオスカー・ヘルナンデスのヒットで一、三塁。続くエドマンが、左翼線に運んで、ドジャースは鮮やかに逆転した。

 ちなみに、あの中前安打は、シーズン後半に入って2ストライクと追い込まれた後、外角のバックドアシンカーに翻弄されてきた大谷が、ついにそれを捉えた瞬間でもあった。

1打席目の大谷翔平への配球 【参照:MLB.COM「GAME DAY」】

 配球を見て欲しい。マナイアとの駆け引きが、5球に凝縮されていた。

 最初の4球は全てシンカーで2-2。いつ、得意のスイーパーを投げてくるのか。意表をついて、チェンジアップで仕留めようとするのか。見ていて、最初から緊張感があった。

 当然、大谷の頭にもスイーパーがあったはず。そして、ボールになるスイーパーには手を出してはいけない、そんな意識も働いていたはず。外角に来た時点で、よりそう意識したのではないか。それこそが相手の狙いで、その場合、ボールからストライクゾーンに入って来るシンカーを見逃す傾向があることは、前回、マナイアと対戦したときにも紹介した。

 マナイアとしては完璧な配球だったが、どこかで1球、スイーパーを見せておくべきだったかもしれない。もはや大谷に軌道を読まれていた。

10月にプレーできることへの感謝と喜び

試合後に記念撮影を行うドジャースの選手たち 【Photo by Sean M. Haffey/Getty Images】

 さて、シリーズ全体を振り返れば、大谷は打率.364、出塁率.548、OPS1.184。2本塁打、6打点。ポストシーズン全体では打率.286、出塁率.434、OPS.934。

 第2戦を終えてニューヨークに移動したとき、大谷は練習日に設けられた会見に出席した。そのとき、バリー・ボンズ(ジャイアンツなど)やアレックス・ロドリゲス(ヤンキースなど)も、プレーオフでは苦しんだが――という、大谷が不振であることを前提にした質問が続いていた。

 確かにその時点では、打率.222、出塁率.344、OPS.677だったが、以降の4試合では打率.400、出塁率.571、OPS1.371。もはや懸念の声は消えていた。

 期待が大きければ大きいほど、プレッシャーは大きくなる。そこで結果が出なければ、さらに背負うものが重く感じるはず。大谷はそこにどう向き合っていたのか?

 その問いに大谷は、「出た結果に対してそれは受け止めればいい」と淡々と答えた。

「それはそれで自分の今後の糧になる。もちろんいい結果を望んでいますし、そうなるように努力はしてますけど、(10月に)プレーするということ自体が大事なので」

 10月までプレーできることへの感謝。結果云々より、そこに喜びを感じていた。状況を「楽しい」とも形容したが、振り子の原理でいえば、その対になるのは、どうだろう、これまでポストシーズンをテレビで見ていた悔しさだろうか。

 大谷は、怯えることなく、嬉々としてワールドシリーズを迎える。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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