ここぞの場面で飛び出した、大谷翔平の同点弾 第1打席に潜む「伏線」とは?【地区シリーズ第1戦】
ボンズですら不振に陥るプレーオフ
乾いたバットの音を伴った打球は、右中間スタンド中段に到達したが、後に振り返って、エンゼルスのジョー・マドン監督(当時)は、こんな言葉を残した。
「あの一打で、二刀流としてやっていける確信を持った。疑っていた人たちも認めさせた」
今回も初めてのプレーオフということで、不安視する声がなかったわけではない。初めてリアル二刀流に挑戦した2021年と同じように。
通算で762本塁打を放ち、7回のMVPに輝いたあのバリー・ボンズでさえ、初めて出場した1990年のプレーオフでは、6試合に出場し、18打数3安打(.167)、本塁打ゼロに終わった。翌91年も打率.148に終わり、0本塁打。
よって、前日会見でも、緊張しないのか?――そんな質問が何度か飛んだが、その度に大谷は否定。それでも訝しがる空気は消えなかったものの、そのことを結果で証明した。
大谷は四回の3打席目も1死一、二塁で打席に入ると、バットを折られながら、エイドリアン・モレホンのシンカーをセンター前に運び、チャンスを広げた。2死後、テオスカー・ヘルナンデスの2点タイムリーで、ドジャースは勝ち越しに成功すると、そのまま逃げ切っている。
空振りはしたけど「感覚的には悪くない」
山本由伸は3回を投げ、被安打5、被本塁打1、失点、自責点ともに5という、ほろ苦いポストシーズンデビューとなった 【Photo by Daniel Shirey/MLB Photos via Getty Images】
初めてのプレーオフに加え、実戦から中5日空いた。それがタイミングにどう影響するのか。大谷にとってもそこは未知だったが、打席に立ったとき、どんな景色が見えたのか? と聞くとこう答えた。
「1球目にカーブが来たので、自分の中で気持ちがちょっと楽になった」
初球、シースが投じたのは80マイルのカーブ。高めに浮いたが、大谷のバットは豪快に空を切った。完全にタイミングを外されたようにも映ったが、大谷の感覚は違った。
「カーブに対して1球目から反応できたなというので、ちょっと落ち着きというか、自分の中でスッと(試合に)入れる感覚があった」
空振りこそしたが、カーブに自然と体が反応した。結果、約1週間ぶりの打席であることも、初出場であることも頭から消え、集中することができた。最終的にはレフトフライに終わったものの、「感覚的には悪くなかった」。それが次の本塁打につながった。
「2打席目も、(その悪くない感覚を)継続できたので」
ドジャースは過去のプレーオフにおいて、初回に3点以上のリードを許したケースでは、0勝14敗だった。しかし、その14試合、大谷の名前はスタメンになかった。
大谷曰く、「結構、落ち込んでいた」という山本の負けも、一振りで帳消しに。
もちろん、大谷に救われたのは、山本だけではない。ドジャースは2年連続、地区シリーズで姿を消している。悪い流れを断ち切るため、短期決戦では、喉から手が出るほど欲しい初戦をものにした。
過去の地区シリーズにおいて、ホームで初戦をものにしたチームが勝つ確率は78.4%。大谷がグイッと、割合を引き上げた。
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