【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

痛恨のミスにも前を向くチェイス・アンリ 「壁にぶつかったほうが面白い」と豪語する20歳のすごみ

林遼平

CLの登録メンバー外が現在の評価を物語る

昨季ようやくセカンドチームで先発機会を得られるようになったことを考えれば、目覚ましい進歩だ。CLの登録メンバー入りは逃したが、チャンスは十分ある 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

 昨年12月の時点で、やっとセカンドチームでスタメン出場の機会を得られるようになったことを考えれば、チェイスがそこから約9カ月でブンデスリーガの舞台に立てたのは大躍進と言っていい。当時はまだ「センターバックは試合に出ないとポジショニングや試合の流れみたいなものをつかめないし、そういった流れに慣れないといけない」と口にする段階だった。

 きっかけは怪我人が続出するというラッキーだったかもしれない。だが、そこまでのプロセスが間違っていなかったからこそ監督に信頼され、起用された。確かな積み重ねが自分の立場を変えるに至ったのは明らかである。

 だからこそ、1つのミスで何かが変わってしまうことも理解していた。トップに踏みとどまるにはいいプレーを続けるしかない、と。マインツ戦のパフォーマンスの捉え方は様々だが、こちら側が”及第点以上”と評価しても、チェイス本人は”いいプレーができなかった”と満足していない。

「9月からはチャンピオンズリーグ(CL)が始まって、初戦の相手はレアル・マドリー。やはりそこに出たいなと思っていて、そういう意味でも(今日の試合には)すべてが懸かっていたんです。(内容的には)悪くなかったと思うんですよ。ただ、あそこはクリアすべきだった……。次、ですね。より高いレベルでやりたいですし、もっと成長しないといけない」

 結局、後日発表されたシュツットガルトのCL登録メンバー25人にチェイスの名前はなかった。15歳の誕生日以降、継続して2年以上当該クラブに所属歴がある選手に適用される、前日までに申請可能なBリストに登録される可能性はあるが、CLメンバーにストレートで入れなかったことが、現段階での評価を表している。CLに出て一気に飛躍するという最高のシナリオを描いていたはずだが、そこには届かなかった。

 だがしかし、これですべてが終わるわけではない。今季のシュツットガルトはCLに参戦することもあって試合数が増加する。怪我人や疲労面を考慮し、チェイスが再び起用される機会もあるだろう。今回のパフォーマンスによって信頼度が高まったことは間違いなく、次なるチャンスが訪れる日も近いはずだ。

先輩たちには「あえて相談しなかった」

昨年のU-20W杯では全3試合に先発したが、パリ五輪のメンバーからは落選。その悔しさを糧に成長を遂げたチェイスだけに、北中米W杯出場も決して夢ではない 【Photo by Tim Nwachukwu - FIFA/FIFA via Getty Images】

 さらに言えば、チェイスなら近いうちにそのチャンスをつかむような気がしている。それは昨年、壁にぶつかった時の対処法について聞いた際に感じたたくましさに起因する。

 尚志高校卒業後に単身でドイツに渡ってから、何度となく厳しい状況に直面してきたが、当時のチームメイトだった遠藤航(現リバプール)や伊藤洋輝(現バイエルン)、原口元気(現浦和)ら先輩たちには「あえて相談はしなかった」という。なぜかと聞けば、壁にぶつかるほうが「面白いんで」との答えだった。

「こっちだと1人でいる時間が長い。日本にいると何かしら誘惑があるじゃないですか。でも、こっちに来たらすべて自分でやらなきゃいけない。逆に集中できるし、サッカーしかない。だから成長できると思うんですよね」

 10代の若者が異国の地で生活していくこと自体が簡単ではない。にもかかわらず、そう言ってのけるチェイスにすごみを感じたのを覚えている。

 パリ五輪のメンバーから外れ、悔しい夏を過ごした。だが、それも糧に前進を続けてきたからこそ、ブンデスリーガデビューにつながった。まだまだビルドアップやスペースケア、ポジショニングなどは贔屓(ひいき)目に見ても荒削りだが、球際や空中戦の強さは、同じドイツでプレーする日本代表の板倉滉(ボルシアMG)や伊藤にも見劣りしないことを証明してみせた。

 ここから、この9カ月のようにさらなる成長を遂げていけば、2026年北中米ワールドカップ出場も夢ではない。もちろん大いに研鑽を積む必要はあるが、それだけのポテンシャルを十分に秘めていると言っていいだろう。

「またイチからやるしかないです。セカンドに戻ってもトップだとしても、イチからやるしかない」

 マインツ戦後、チェイスは最後にそう言って前を向いた。自分の置かれた現状は理解しているし、その現状を変えるのも自分次第だと分かっている。たくましさを備えた弱冠20歳のセンターバックの、次なる進化が楽しみでならない。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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