【月1連載】現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記

物議を醸した久保の“トッポ・ジージョ”ポーズ “適応エクスプレス”と呼ばれる浅野の現地評

山本美智子

サポーターは当初まったく期待していなかった

開幕直前のボローニャとのプレシーズンマッチでは本拠地初ゴール。加入当初はほとんど無関心だったマジョルカ・サポーターだが、一気に期待が膨らんでいった 【Photo by Cristian Trujillo/Quality Sport Images/Getty Images】

 さて、今シーズンは久保の他にもう1人、日本人選手がラ・リーガ1部でプレーしている。マジョルカの浅野拓磨だ。ドイツのボーフムから移籍してきた日本代表FWは、ここまでの4試合すべてに出場(スタメンは3試合)しているが、その評価がすこぶるいい。

 マジョルカにとっては、大久保嘉人、家長昭博、そして久保に次ぐ4人目の日本人選手となる。日本企業の株式会社タイカがメインスポンサーを務め、そのタイカの創業の地が静岡県清水市であることから、Jリーグの清水エルパルスと業務提携を結ぶなど、この数年でマジョルカはすっかり“親日クラブ”になった。

 とはいえ、経済的に裕福なクラブというわけではない。それだけに今回、移籍金フリーで、それも欧州リーグでの実績が十分の日本人アタッカーを獲得できたのは、クラブにとって財政面でも戦力面でも大きかっただろう。

 ただ正直、マジョルカのサポーターは当初、スペインではほとんど無名の日本人選手の獲得に驚きはしたものの、まったく期待はしていなかった。

 しかし、今は違う。7月8日に獲得が発表されてから、ほんの2週間ほど。プレシーズンマッチで加入後初ゴールを決めた浅野への期待感は一気に高まり、「あの日本人選手、見るたびにどんどん良くなっていくね」、「アサノの名前は知らなかったが、(カタールW杯で)あのドイツから決勝ゴールを奪ったストライカーだろ? やってくれるに違いないさ」といった声が、あちこちで聞かれるようになっていった。

かつて久保を獲得できなかった指揮官の感慨

マジョルカのアラサテ監督がなによりも高く評価するのが、浅野の献身性だ。自慢のスピードで攻撃を活性化するだけでなく、守備の労も厭わない 【Photo by Diego Souto/Getty Images】

 地元紙の『ディアリオ・デ・マジョルカ』はもちろん、全国紙の『マルカ』も含めた現地メディアが驚くのは、その適応能力だ。

「幼いころからスペインで育った久保を除いて、適応期間を必要としなかった初めての日本人選手」と浅野を持ち上げ、なかには“適応エクスプレス”と見出しを打つメディアもあった。

 まだゴールこそ決めていないものの、新監督のハゴバ・アラサテは、前線でコンビを組むヴェダド・ムリキとも短期間で打ち解け、毎試合、攻守にハードワークを怠らない浅野のことをすっかり気に入っている様子だ。代表ウイーク前の最後の試合でレガネスに1-0で勝利した後、指揮官は右ウイングとして72分までプレーした浅野について、こう評価している。

「(両ウイングの)マルク・ドメニクとアサノが攻撃に奥行きをもたらしてくれた」

 昨シーズンまで6年間にわたってオサスナを指揮したアラサテには、当時久保の獲得を熱望しながら叶わなかった過去がある。それだけに今回、同じ日本人のサイドアタッカーを手に入れた感慨が、おそらく彼の胸の内にはあるはずだ。

 こうして浅野の周囲には、ポジティブな空気が漂っている。マジョルカに移籍後すぐに、「(シーズン)10ゴール以上は決めたい」と具体的な数字を挙げて意気込みを語っていた浅野。スペインでの初ゴールが生まれる日も、遠くはないだろう。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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