湘南を離れ、町田での新たな争いを求めた杉岡大暉。もがき苦しみ、自分を見失いかけた先でやっと見つけた理想のSBとは

原田大輔

移籍の難しさを経験した鹿島時代 【写真:アフロ】

「鹿島に移籍したときは、決して自分に確固たる自信があったとは言えなかったんです。思い返すと、僕自身、これまで自信を持って勝負できたタイミングが少なく、鹿島に移籍したときも、E-1(EAFF E-1サッカー選手権2022)で日本代表に選ばれたときも、光栄でしたけど、自分で自信を持って決断したとか、選ばれたと言えるタイミングではなかった。それでも、鹿島から湘南に戻ったときには、成長を実感できたので、僕にとってはあの1年半もすごく必要な時間だったと思えています」

 今季、自分自身を見つめ直して、答えに辿り着いたからこそ、当時とは異なる「自信」が、今はある。不遇とも表現したくなる鹿島での経験を、糧や教訓にする力も備わっている。

「その経験を踏まえて、自信を持ってプレーすることが一番大事だと思っています。移籍は本当に難しいことですけど、その経験があるのは今の自分にとって大きなアドバンテージになっています。誰も自分を知らない環境では、無理に周りに合わせようとするのではなく、自分というキャラクターを作り上げるくらいの気持ちで、アピールすることが大切だと学びました。選手としてうまかろうがヘタだろうが、『自分はこういう選手だ』と示すことができれば、周りがそれを理解して合わせようとしてくれるので」

 新天地へと踏み出したのは、杉岡の強さでもあった。早くも横浜FM戦で変化を見せたように、町田では自分を表現し続けている。

縦への推進力と正確な左足で、町田の新たな武器になれるか 【©️FCMZ】

「町田が左利きの左SBを探していたように、それだけでも今までのチームにいないキャラクターだと思うので、その強みを存分に出していきたいと思います。幸多郎はこれまでずっと試合に出ていますけど、彼は右利きなので、自分はまた違った個性を見せられると思う。また、彼と切磋琢磨していくことでお互いに成長できればとも思っています。黒田監督は、練習中も誰一人、特別扱いすることなく、厳しく要求しているように、自分も試合に出られたとしても一瞬たりとも油断や余裕はできないと。それはどのポジションであっても、誰であっても、きっと変わらない。そこが町田の強さでもあると感じています」

 この夏には、左サイドに相馬勇紀も加わった。

「これまで平河悠選手が担っていた左サイドは、町田のストロングではあったと思いますけど、それに負けないような力のある選手が加わったので、一緒に町田の新たな左サイドを築いていきたいですね」

 杉岡が町田でのデビューを飾った国立競技場での試合が、8月31日にも行われる。J1第29節で迎え撃つのは浦和レッズである。杉岡が左SBで出場すれば、マッチアップするのは石原広教だろう。

国立でマッチアップする可能性がある石原広教 【©️J.LEAGUE】

「昨季までのチームメートですからね。やりにくいですよね(笑)。広教は対人も強くて、守備も強い選手。浦和に加入してからは攻撃面での成長も感じています。何より、彼はメンタルが強い。浦和に移籍した今季は当初、試合に出られず苦労していましたけど、自信を失わずに続けた結果、ポジションをつかみましたから。その自信、そのメンタリティー……見習うべきところが多い選手だと思っています」

 自信が大切だと知るからこその賛辞である。そして、杉岡自身も今は、自信に満ちあふれている。

「確かに自分のプレースタイルは、現代サッカー向きではないかもしれません。でも、クラシカルなSBというか、自分の身体の強さを活かして守備をして、ガンガンと攻め上がって、チームの攻撃に厚みをもたらしたい。器用な選手ではないかもしれませんが、自分の強みである推進力をもっと、もっと出していくことができればと思っています。クラシカルなSBって言いましたけど、今まで、自分の理想像って探していなかったんです。でも、この半年間、苦労して自分を見つめ直したことで、見えてきたのは酒井宏樹さんのような選手。そういう力強いSBになりたいと思っています」

初めて明かした理想のSB像 【©️J.LEAGUE】

 町田のサッカーで自分が活きる自信もあれば、自分がチームや周りを活かせる自信もある。迷いから解き放たれた杉岡が、町田に新たな風を吹かせる。その追い風は、栄光へと続いていく。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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