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力のクロップ、技のデ・ゼルビとアルテタ 欧州の北と南を代表する日本人3選手のボス

森昌利

表面的にはマッチョなイタリア男のイメージだが

ブライトンのデ・ゼルビ監督は激情的で、またお茶目な一面もある。しかしその頭脳には、グアルディオラにも通じる緻密なフットボール理論が詰め込まれている 【Photo by Bryn Lennon/Getty Images】

 一方、三笘の上司であるロベルト・デ・ゼルビは、テクニカルなポゼッション戦略を完成させてラテン・フットボールの最高峰に位置するペップ・グアルディオラに心酔するイタリア人である。

 当然ながら完璧に“技術の南”に属する監督だ。そして表面的にはラテン男の傍若無人さを漂わせ、タッチライン上でも激しく感情を爆発させる。また時折、ミックスゾーンで三笘の出待ちをしている筆者に、いたずらっ子のような表情で「お前は三笘が活躍すると本当に嬉しそうだなあ」などと、ブロークンな英語で語りかけてくる。

 ところが日本代表MFに話を聞くと、戦術面では繊細かつ論理的な戦略家の顔があることも浮上する。

 昨季の9月、ブライトンは攻撃的なアプローチでチームを飛躍させたグレアム・ポッター監督をチェルシーに引き抜かれ、後任としてデ・ゼルビを招聘した。この監督交代による変化について三笘に聞くと、「特に守りで細かい指示があり、チームで対応しているところ」という返事が返ってきた。

 そう、表面的にはマッチョなイタリア男のイメージが強いが、その頭脳にはきめ細かく狡猾なラテン・フットボールのエッセンスが詰め込まれているのである。

アルテタはペップとクロップの間に割って入る可能性も

アーセナルのアルテタ監督は在任5シーズン目。まだ41歳と若く、いずれは世界的な名将になる可能性を秘めている 【Photo by Stuart MacFarlane/Arsenal FC via Getty Images】

 そういう部分――きめ細かく狡猾なラテン・フットボールの継承者という意味では、スペイン人である冨安健洋のボス、ミケル・アルテタもその1人に数えられる。しかし、やはり百戦錬磨の人たらしであるクロップや、3つ年上でビッグクラブの重圧がないブライトンでのびのびと監督をやっているデ・ゼルビと比べると、多少であるが、41歳の青年監督は感情が結果に左右されやすく、時折会見でぎこちない印象も与える。

 ただし、自分の言いたいことはズバリと言ってくる。冨安がプレミア初ゴールを決めた昨年10月28日のシェフィールド・ユナイテッド戦後、「 I love him, everybody loves him(彼を愛している。みんな彼のことを愛しているんだ)」と会見で開けっぴろげに言い放ったところにも、そんな情熱的なスペイン人の率直さが表れていた。

 かつてマンチェスター・シティで副官を務め、グアルディオラの愛弟子と言ってもいいアルテタだが、現役時代にエバートン、そしてアーセナルと渡り歩き、プレミアリーグの特徴をまさに身をもって知っている。それはクロップやデ・ゼルビ、そしてグアルディオラにはない貴重な経験値だ。

 またその若さに比例するように、若いチームをしっかりと鍛えながら、新たな戦術に挑む姿勢も目立ち、独自のスタイルを構築しようとする気概にあふれている。

 それに昨季の躍進により、サポーターに『スーパー・アルテタ』とチャントされ、非常に愛される存在となった。今後、冨安を含めて伸び盛りの20代選手が中心のアーセナルを欧州チャンピオンズリーグに定着させ、2~3年以内にプレミアリーグの頂点に導くことができれば、この数年間のイングランド、いや指導者としては世界の頂点に立ったと言って過言ではないポゼッションのグアルディオラ、そしてプレスのクロップの間に割って入る存在に急浮上する可能性のある人物である。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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