京大野球部の「クセが強すぎる」バットマン 3回生で公認会計士試験に合格し、4回生で安打を量産
野球部員が公認会計士になる方法
父は製薬会社勤務、母は薬剤師という両親のもとで育った伊藤は、もともと理系科目が得意な高校生だった。京大受験時には「経済学部に入りたい」という意思を持っていたが、経済学部(理系)の入試科目には得意の理科(物理、化学、生物、地学)がなかった。そこで理科2科目が入試科目になる総合人間学部(理系)を受験し、現役合格を果たした。だが、いざ京大に通い始めると、伊藤は「あまり学べている感じがない」と歯応えを感じられなかった。
そこで2回生の夏から、伊藤は公認会計士を志す。1日の勉強時間を入力するアプリをダウンロードし、ほぼ1年間休みなしで勉強漬けの日々を送った。
「公認会計士の勉強は最低でも2500時間必要と聞いたんですけど、自分の場合は1年1カ月、1日平均5.5~6時間勉強して、計2200時間でした」
公認会計士の勉強をしつつ大学の授業を受け、野球部の活動と両立させる生活は困難を極めた。とくに野球の自主練習時間は減らさざるを得ない。だが、伊藤は「それがむしろよかった」と振り返る。
「練習時間が減ったことで、いろいろと考えて練習できるようになりました。時間があると、どうしても数をこなすことが目的になってしまうので」
そして、それは公認会計士の勉強でも同じことだったと伊藤は続ける。
「毎日やるべきことをタスク化して、勉強できていました。時間目標はあっても、時間に執着はしません。Twitterで公認会計士の勉強をしてる人のアカウントを覗くと、勉強時間に執着してる人が多いように感じました。でも、そういう人は勉強したことに満足してるのかなと。自分の場合は時間が取れない分、いかに『その日にやるべきこと』を意識してやらないといけないかと考えていました」
3回生の春季リーグ戦期間には日曜日に公式戦と試験が重なり、1試合欠場した。その時も 土曜日の試合が終わると帰宅して試験勉強をし、日曜日に受験。月曜日のリーグ戦が雨天順延、火曜日に試合に臨むという、目まぐるしい日々を過ごした。それでも伊藤は「切り替えはできていて、不思議と結果は出ていました」と語る。
伊藤を支えていたものは、「やるからには、どっちもやらないと」というプライドだった。勉強を失敗すれば「野球のせい」、野球で結果が出なければ「勉強のせい」と、どちらかのせいにしたくなるのが人情だろう。だが、伊藤は「それをしたら終わり」と断ずる。
京大受験時も、高校3年夏の模試ではE判定だった。「どうすれば合格できるか?」と計画を立てて勉強し、11月の模試ではB判定と成果を挙げている。
「高校時代に京大アメフト部の話を聞いたことがあったんです。『アメフトは理想と現実を埋めていく作業だ』って。これは野球も勉強も一緒やなと思いました。見なアカン現実は受け止めつつ、理想をかなえるためにギャップを埋めていく。受験は全部の科目を得意にする必要はなくて、得意な科目を一つつくって、あとはギリギリの点数を取れれば受かるので。そのために自分が今どんな位置にいるかを知るのは必要やと思います」
公認会計士合格というわかりやすい結果が出たことで、伊藤は自分の取り組みにますます自信をつけた。「理想と現実」を埋める作業は、野球でも続いている。
「みんな『理想のスイングをする』ことを理想にしがちなんですけど、僕はそっちじゃなくて『ヒットを打つこと』が理想だと思うんです。ヒットを打つために、何が必要かを埋めていくことが大切だと考えています」
立命大との試合をきっかけに、伊藤のバットは打ち出の小槌のごとく安打を量産していく。
書籍紹介
【写真提供:KADOKAWA】
1人は元ソフトバンクホークス投手の鉄道マン・近田怜王。
もう1人は灘高校生物研究部出身の野球ヲタ・三原大知。
さらには、医学部からプロ入りする規格外の男、
公認会計士の資格を持つクセスゴバットマン、
捕手とアンダースロー投手の二刀流など……
超個性的メンバーが「京大旋風」を巻き起こす!
甲子園スターも野球推薦もゼロの難関大野球部が贈る青春奮闘記。
『下剋上球児』『野球部あるある』シリーズ著者の痛快ノンフィクション。