プラスワン2023~熊本空港CC

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【Photo:Atsushi Tomura/Getty Images】

KKT杯バンテリンレディスオープン 熊本空港カントリークラブ(熊本県)最終日

 心地よい空間が広がる。そこには一切のムダがない。やすらぎを届けるためだ。熊本空港カントリークラブを年に一度、訪れることが楽しみのひとつになった。

 クラブハウスを設計したのは、アントニン・レーモンド。帝国ホテル新館を設計した近代建築の巨匠、フランク・ライド・ロイドの助手として来日し、すっかり和の文化へ魅了された。1921年、日本事務所を設立。第二次世界大戦後に再来日を果たし、深く日本に根を下ろすことになった。

 レーモンドはゴルフが趣味。東京ゴルフ俱楽部のメンバーへも名を連ね、クラブハウスを設計している。75年に完成した当コースのクラブハウスは高い六角形の屋根。大きな支柱のダイナミックな構造で強さと、木のぬくもりが同居する。得もいわれぬ包容力はこうして生まれるのだ。

 「縁があって、2008年10月からコースの社長を仰せつかった。このクラブハウスも、建て直す計画が持ち上がったけど、私は絶対に残す-と猛反対。調度品も、そのまま大事に使用している。余計なものを足さない。それこそ、万人が楽しんで寛げるところです」(熊本空港カントリークラブ代表取締役・山口恭廣社長)

 取材をしながら天井を見上げると、3つがひと組になったモダンなライトが目に飛び込んでくる。「もしや…」と思いつき、確認すると、20世紀を代表する彫刻家として知られるイサム・ノグチの作品だった。モニュメントや庭などの環境設計、家具や照明などのインテリアまで幅広い活動を行った、日系人。

「長さの異なる革ひもを使用し、三角の木枠で吊るされている。レーモンドさん、ノグチさんは親交があった。シンプルだけど、優雅でしょう。私が感服したのは熊本地震の時。あれだけの揺れと衝撃があったにもかかわらず、ダメージを受けることがなかった。クラブハウスも同様。本当にすごい」(同山口社長)

 耐久性、実用性を重視して、自然災害にも強い。次世代を先取りしたことも、レーモンド建築の特性だ。日本近代建築の父は1888年、オーストラリア帝国統治下のチェコで生まれ、米国へ。WBCではチェコ代表が数多くの心温まるエピソードを残し、帰国後の近況までインターネット上で関連記事が掲載されている。これも日本とチェコの深い縁になった。

 そして、山口社長には密かにあたためているプランがある。「登録有形文化財として、レーモンドさんの建築を永遠に残したい」。クラブハウスだけではなく、自身が経営する大洋企業大劇会館は、熊本市中央区にあるテナントビル。こちらもレーモンド設計で、1969年に建てられた建造物だ。

 今大会を大いに盛り上げた有村智恵は、「私が育ったコースですけど、そんなにすごいものだとは存じあげなかったとはいえ、熊本出身としてとても誇らしい」と、うれしそうに語っている。

 ゴルフ大国・熊本は選手の育成ばかりではない。文化を次世代へ残すことにも熱心だった。(青木 政司)
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