「本当の苦しさは、目的や目標が何もない状態」【五味原領・後編】
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「挑戦への欲を満たしたいから続ける」
「繰り返しにはなってしまいますが、目標を持って何かをすることや、どうなるかわからない未知なることに挑戦する楽しさ、それがボディビルを続ける理由です。人それぞれそういうものが何かあると思いますが、私にとっては、それがたまたまボディビルだったということです」
――コンテストの勝敗は、理由ではないということですね。
「そうですね。2021年の世界選手権で4位になって帰ってきたときに、『来年で引退しよう』というのは決めていましたから。勝つこと自体を、自分の中ではボディビルを続ける目的としていません。ボディビルをはじめたときに感じた感情というのは、勝つことが嬉しいということではなく、挑戦することの楽しさ。もちろん、世界選手権で優勝してやめたいというのは頭の中にはありましたが、それが第一ということではなかったです」
――自分の感情に対して素直に進んでいく生き方は、ここまで話を聞いてきて本当に一貫しているのだと感じます。
「誰かのためではなく、自分がやっていて楽しいから続ける、挑戦への欲を満たしたいから続けるというのは、ある意味すごく自己中心的な取り組み方だと自分でも理解しています。でもその中で得た知識や経験は、これからボディビルに挑戦してみたい人や、もっと成績を伸ばしていきたいという人に向けて伝えることはできると思っています。そこはしっかりと還元することで、ボディビルをやることの価値をしっかりと残していきたいと考えています」
――ボディビルが個人スポーツであることに変わりはないですし、やめたいときにやめる、あるいは一度やめても、いずれ戻ってこられるのもまたボディビルだと思います。とはいえ、決して一人で戦っているものではないというのは、日体大でクラブとして活動してきた中で感じているところはあるのではないでしょうか。
「それはもちろんあります。やはりクラブに所属していたことで、一人でやっていたら得られないであろう感情をたくさん得られました。究極の個人スポーツでありながら、集団であることの強みがあの部にはあります。私はバーベルクラブで多くの人と時間を共に過ごしたことで、支え合いながら何かを達成するということを強く学べたと思います。自分の欲を満たすためのボディビルですが、周りから多くの支えがあって初めてボディビルができることに気付かされ、競技に打ち込める環境につねに感謝するようになりました」
苦しさの先にある目標を目指すべし
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「ボディビルにおける苦しいと言われるようなことはトレーニングや減量が主だと思いますが、私はそれによって『やめたい』とはなりません。つらいことというのは、目標に向かってがんばることができているからこそ生まれることであって、ある意味、自分にとっての報酬を得るためのもの。昨年で引退しようと思ったのは、その報酬がもう得られないと感じてしまったからでした。なので、つらさの先にある目標や成し遂げたいことを明確に持てれば、苦しくてもいいのかなと思います」
――つらさや苦しさは、自分が成長するためのものであると。
「たとえばトレーニングの重量や減量で停滞する時期がやってきたとしても、それも結局は成長の過程の一つだと思います。停滞しないと次の伸びもこないし、そもそもずっと伸び続けるということはありえないと思うので。もし下降する時期があったとしても、最終的には成長につながると信じて自分は取り組んできました」
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「そうですね。つねに目的や目標がある状態で日々を過ごしていきたいと思っています。それが自分にとっての刺激となり、たとえつらいことがあっても、それがないときに比べれば耐えられる。目的や目標が何もない状態を私は苦しいと感じてしまいます。ただし、あまりに何かに集中してしまうとそれを見つけられなくなったときに困ってしまうので、視野を広く持っていくつかの選択肢を抱えながら、そのときどきに合わせた選択をしていきたいなと思っています。今はまだ話せませんが、一度は引退を決意できたのも、他にやりたいことが見つかったからでしたので」
――ありがとうございます。そういった経験を経て、今年のステージでどんな姿を見せてくれるのかを楽しみにしている方もいると思います。
「やはり自分は挑戦することが好きであって、目標を持てることがあればつねにがんばっていけるタイプ。それがある限りは、ボディビルに情熱を注いでいきたいと思っています。今の時点では、昨年と同じくクラシックフィジーク選手権と世界選手権を軸に考えています。9月にクラシックフィジーク選手権、11月に世界選手権があるので、もしまた10月のボディビルの日本選手権に出たいとなっても出れる状態にはあると思うので、自分の中でも気持ちの変化を見ながら考えたいなと思っています」
写真/林嵩
1997年12月26日生まれ。2017年、大学2年生時に日本体育大学バーベルクラブ(現ボディビル部)に入部し、ボディビルをはじめる。2018年の関東学生ボディビル選手権で大会デビューし、4位入賞。同年の全日本学生ボディビル選手権では3位、北区オープンボディビル大会で初のタイトルを獲得。日体大卒業後はスタジオ・バズーカ自由が丘店の店長を務め、トレーナーとして活動中。
【主な戦績】
<2019年>
第54回全日本学生ボディビル選手権準優勝
第30回日本ジュニアボディビル選手権優勝
<2020年>
ゴールドジムジャパンカップ クラシックフィジーク オーバーオール優勝
<2021年>
第1回日本クラシックフィジーク選手権 171cm以下級優勝・オーバーオール優勝
<2022年>
第2回日本クラシックフィジーク選手権 171cm以下級優勝
ゴールドジムジャパンカップ ボディビル70kg以下級優勝
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