大学eスポーツの最前線 :現場だからこそ話せる「いま」と「未来」(3)

日本スポーツ産業学会
チーム・協会

【イメージ写真】

小澤 行央・西田 陽良(一般社団法人 学生e-sports連盟 副代表理事)

【質疑応答】

視聴者 高校生は学校の先生が主体的に動くのに対して大学生は自分たちが主体で動ける。ここが圧倒的な違いであり、それが全体の盛り上がりにつながるのだと思います。高校生が主体的に動けるようにするにはどのようなコミュニティがあればいいと思いますか?

小澤 大学生は、非登録団体から始まるので、自分で動くしかありません。必要性に駆られて、それが主体性に繋がっているように思います。
どのようなコミュニティがあれば高校生が主体的に動けるのかについては、自分のコミュニティを作っていけるような高校生もおそらくいると思います。そういう人を主体としたコミュニティを促してあげる。同じ高校生がこういう考えを持っていて、こういう取り組みをしているという気づきと共感を生み出してあげると、それが波状効果になって、自分にもできるのではないかという気づきになると思います。意欲のある高校生を支えてあげる取り組みが、今後、高校生が主体的にeスポーツを盛り上げていく、自分から発信して行く、自らをセルフブランディングしていくきっかけになるのではないかと、私自身の経験から考えております

西田 この大会を運営しろとか、そういうところから先に行くのではなくて、身の回りの近いところから取り組んでいく。そして自分たちの取り組みが身内だけで完結しないようなシステム作りが必要だと思います。自分たちが取り組んでいることをただ発信するだけでもいいですし、自分たちの取り組みを届ける、大会に参加する。そういった身内だけで完結しない行動をとることが大事だと思います。そういった取り組みを応援したり、きっかけを与えられるようなことが第1にできることではと考えております。

中村 高校選手権はサードウェーブが支援していて、例えば、高校のeスポーツ部を作るためにパソコンを提供しますよ、みたいなこともやってくれていますが、どうして大学生にはそういう支援してくれる会社がなかったのでしょうか?

小澤 Call of Duty(COD)というゲームを例にあげると、もともとそのIPが大学対抗戦を主催されていました。大きな盛り上がりを見せていましたが、その大学対抗戦が無くなってしまいました。そうなった時に出場していた近畿大学の学生が、大学の学園祭でCODの大学対抗戦を開催しました。その時は関西ローカルの企業様や、ゲーム機の準備などの支援がありましたが、その大会も現在はなくっています。
大学のサークルは、代表が入れ替わり、中身の人間が変わってしまうと、全く違うサークルになってしまうっていうところがあり、企業様からすると継続して支援はしたくても、しにくい状況がありました。高校生ですと、学校主導で先生がバックアップしているので、継続して支援がしやすい立て付けになりますが、学生主導になると、その特徴が逆にネックになってしまって、継続的な支援が難しい状況があるのではないかと考えています。

視聴者 大学対抗・中学高校対抗のeスポーツ大会を盛り上げるには、競技サークルの数を増やすだけでなく、競技者以外の周りの学生や大学が「一緒になって応援している」という「一体感」が大事な気がします。大学eスポーツを応援する側の現状について,お教えいただければ幸いです.また,学校全体での応援が盛り上がるためにはどのようにすれば良いのかアイデア等あればお願いいたします.

小澤 神戸国際大学の広報課の方がeスポーツサークルに注目されておりまして、大会に出た実績を大学のホームページに載せるなど、広報の支援はかなりされている印象を受けます。
一体感については、甲子園とか箱根駅伝とかを見て胸が熱くなったり、応援したくなるストーリー性がヒントになるのではないかと考えております。そのサークルの成長過程であったりだとか、選手の成長過程をうまくサークル自身がブランディングできるようにする。学生e-sports連盟として、そういう取り組みを支援できるような、選手自身が輝けるようなところを支援して行く必要があると考えております。

西田 自分の大学を応援するという文化そのものが、eスポーツ以外のコンテンツにおいても生み出せていないと思いますが、人と人の繋がりを大事にすればいいのではないかと思っています。自分たちのやっていることは誇れることである。ただのサークル活動ではなくて、その大学のコンテンツ、そのタイトルの代表として出ているので、そこは各々誇ってもいいのではないかと思います。そうなれば必然的に「大会に出るから配信見て」といったことを言えるような環境に繋がると考えます。eスポーツだけではないと思いますが、自分たちを誇れるようなことをしていると、まず認識していただいて、そこから周りを呼んでいく。そうしたら、今度はその周りが周りを連れてくるという良い循環が生み出されるのではと考えています。

中村 IPをフリーにして、パブリッシャーと一緒にやって行くということですが、一緒に大会をやろうとした時、どんなことが大会運営実現を妨げたのでしょうか?それを使わせてくれないパブリッシャーがいたということですか?

小澤 パブリッシャーに、こういう形でやらせていただきたいですが大丈夫ですか?と確認した時に、似たようなタイトルは扱わないでもらいたいとか、少し懸念される方もいました。なかなかそこが難しいのかなという印象を受けています。

中村 つまり1つだけのタイトルでやる場合には殆どの会社は許可してくれるけど、一緒にやるっていうと、「いや、困るよ」みたいに言われるっていうことですね。
大会を開く時って、IPホルダーに利用料を払うんですか?

小澤 大学対抗戦で開催している3タイトルで、利用料を支払っているものはなく、あるという話を伺ったこともありません。

中村 少なくとも1タイトルでやる場面では支障はなく、ほぼただで使える状況になっていてあんまり制約はないんだけど、総合型としていろんなタイトルを一緒にやろうとすると「一緒にやるのはやめて」と言われる。そういうことが起こるということですね。

小澤 ロケットリーグとLOLとフォートナイトとかの、毛色の違う3タイトルであれば開催可能な形はありますが、例えばこの中にPUBGが入ると難しくなります。

中村 何で難しいんだろうね。普通の展示会とかは、おなじような業種の企業が似たようなところに固まって、それぞれブースを作っていて。そうすると、より人が集まるっていうシナジー効果があるじゃないですか?そうなのにeスポーツにおいては、どうしてそういうシナジー効果を嫌がるんでしょうね。
ライツをフリーにしてくださいということについては、ほとんどのライツホルダーは許可してくれるけど、類似したものが一緒になるということに抵抗を示すというのは、単にライツを放棄してくださいっていうことでは無いような気がします。問題の根本原因、何の支障があるのかというのを探っていくという試みがあったら、もうちょっと違う展開があるんじゃないかなって気がします。
色々なタイトルを集合させましょうみたいなことはあんまりやらないのは業界のしきたりなんですかね。ここら辺、梁瀬さんどう思いますか?

梁瀬 社会人の大会をするときに、IPホルダーの方々に使用許諾を必ず取らなきゃいけないんですけれども、会社によって、OKが簡単に出るところと、ものすごく時間もかかるところなどいろいろあります。まあ、ちょっといろんな制限があって結構困っていたりします。なので、そういうものがフリーになってくれると本当に、もっと、もっと広がるのになあっていうのは同感です。

中村 秋葉原でNTTeスポーツの会場があるじゃないですか。エグゼフィールド秋葉。そこではどんなタイトルでも楽しめるんですか?

梁瀬 あそこはゲームPCが置いてあって、個人が契約している先からダウンロードして、オンラインで外の人と遊ぶっていうのが基本になっています。基本の考え方としてはゲームフリーなんです。

中村 会場に使用権があるんじゃなくて、使う人が、自分が持っているものをそこで使うっていうことですか?ただ場所を提供しているだけという考え方なんですね。

梁瀬 はい。

中村 ゲームに自然に触れ合う、デモンストレーションみたいなイベントだったら、きっとどんな会社も競ってきますよね。選手権じゃなくて、みんなでeスポーツ楽しみませんか?みたいなイベントだとしたらどうなんでしょうか。どうしてそれができないのかっていうのがちょっとよく分からないですね。
ちなみに世の中には、ゲームのタイトルってすごくたくさんありますが、そのうち、大会で大学生の皆さんが使いたいタイトルは全部でいくつあるんですか?100ぐらいあるんですか?

小澤 今行っている3タイトルか、少し増やして5タイトルは複合的にやりたいと考えています。

中村 3つとか5つで、もうすでに「一緒にやるってもらったら困る」っていうふうに言われるんですね。一緒にやれるものだけでやるっていうんじゃなくて、この5つのうち競合する2つがあって、そこが困っていて、どっちか1個諦めればいいっていう問題なんですか?

梁瀬 高校選手権で選んでいるタイトルについてのコメントをいただきました。
「高校生がやるタイトルであるために、あまり血が出ないだとか、課金なしで強くなるだとか、そのあたりを重視しています。多くの人に応援していただく大会にするためには、戦争とかテロだとか、そのあたりのタイトルは避けたいと思っています。」という話です。

中村 なるほど。タイトル選びをうまくやると、所望のものができるかもしれないですね。いきなりライツを放棄してくれみたいな大胆なことじゃなくて。
それともう1つ。やりたいタイトルは、一度決まったらずっと変わらないんですか?

小澤 絶対変わらないことは無いです。

中村 新しいゲームは次々に出ていますよね。これからも出ると思うんだけど、そうすると不滅のタイトルであるリーグオブレジェンドなんかでも、そのうち別のタイトルに取って代わられる可能性もあるんですか?

小澤 大いにあります。流行り廃りがあるのもeスポーツの特徴です。サッカーとか野球は、流行り廃りとか、そういう次元ではないので、必ず一定数のプレイヤーがいますが、eスポーツは、飽きてしまうと一気にプレイヤーが離れてしまいます。工夫しなければならないところです。

中村 不思議ですよね。バスケットボールというスポーツは100年ちょっと前にアメリカ人が作ったわけですよね。ニュースポーツと言われるものも30〜40年ぐらい前の間に次々に作られてきて、次々に出てくる。eスポーツも次々に出てくると思うんですよね。ニュースポーツが。
それを学生連盟で作っちゃうっていう考えはないんですか?学生e-sports連盟で。
eスポーツのゲーム作りたい人ってたくさんいると思うです。作ってくれたら一回は大会でやりますって言って。で、評価されたら学生対抗戦で採用しますとかね。入賞したら少なくとも3年間はやりますとか。もしうまくいったら、永久にやりますっていうのを皆さんの連盟で保証したらどうですか?
JeSUだと供給側の企業等が中心となって組織されているのでユーザーが自由に動けるわけではないのですが、みなさんの学生連盟はユーザーの会じゃないですか?だからユーザーがそのIPを持つというか、ユーザーがルールから全部を作るっていうことができたら、そのフリーなIPを育てていくこともできるかもしれませんよね。
Linuxのような制作過程でオープンソースのゲームが普及すると、eスポーツの世界もずいぶんと変わってくるのではないでしょうか。
おじさんみたいな言い方で恐縮ですが、若い人のエネルギーに期待しております。ありがとうございます。

※本稿は、2021年12月14日(火)に開催されたスポーツ産業アカデミー(ウエビナー)の講演内容(質疑応答)をまとめたものである。

中村-中村好男(スポーツ科学学術院 スポーツ科学部教授)
梁瀬-梁瀬和人(株式会社NTTe-Sports・顧問)
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著者プロフィール

日本スポーツ産業学会は「スポーツ産業の健全な発展に寄与できる学会」「産官学の共同による開かれた学会」「国際性豊かな学会」等を中心テーマとし、平成2年に設立されました。 当学会が運営している「SPORTS BUSINESS ONLINE」は、論文誌「スポーツ産業学研究」、情報誌「Sports Business & Management Review」に続く第3の情報媒体として2021年に開設したWebジャーナルです。 コンセプトは「スポーツビジネスのあらゆる情報が集結するオンラインジャーナル」。 本学会が主催するセミナーや学会大会などの情報(案内・プログラム・講演録)や、論文記事情報などを中心に様々な情報を発信しています。

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