「希望の光」となったカップル種目の躍進 フィギュア団体初メダルを安藤美姫が解説

久下真以子

フィギュアスケートの団体で初となるメダルを獲得した日本。チームとしての成長が伺えた 【Getty Images】

 2月7日、北京五輪のフィギュアスケートの団体が行われ、日本が銅メダルに輝いた。ペア・フリーで三浦璃来/木原龍一組(木下グループ)が自己ベストの139.60点で堂々の2位。アイスダンス・フリーは小松原美里/小松原尊組(倉敷FSC)が98.66点の5位だったが、女子シングル・フリーで坂本花織(シスメックス)がシーズンベストの148.66点をたたき出して2位になり、日本は団体戦では初のメダル獲得となった。

 団体戦が正式種目に採用されて以降、2014年ソチ五輪、18年平昌五輪といずれも5位だったチームジャパン。今大会ではなぜ躍進を果たすことができたのか。06年トリノ五輪・10年バンクーバー五輪に出場し、世界選手権で2回優勝している安藤美姫さんに、悲願の団体戦メダルにつながった要因について聞いた。

実力を十分に発揮して日本をけん引したシングル勢

女子シングルのエース坂本は、2度目となる五輪で落ち着き払った堂々たる演技を見せた 【Getty Images】

 選手たちの顔ぶれや調子から、団体戦でのメダル獲得は、五輪開幕前から予想していました。でも1人ひとりがベストを尽くさないと叶わなかった結果だと思うので、本当に良かったですよね。男子シングルのショートプログラムでは、宇野昌磨選手(トヨタ自動車)が「4回転トウループ+3回転トウループ」をバッチリ決めてくれました。コンビネーションが4回転+2回転になっていた時期があったんですが、トップバッターの重責をきちんと果たしましたね。

 女子ショートプログラムの樋口新葉選手(明大/ノエビア)は緊張感をうまく力に変えて、舞台に立てる嬉しさが伝わる演技を見せました。男子フリーの鍵山優真選手(オリエンタルバイオ)は昨年12月の全日本選手権後に挑戦すると公言してきた「4回転ループ」をしっかり組み込んで、強い気持ちを持って臨んでいました。大トリの女子フリーを務めた坂本選手もさすがの滑りでしたね。

運命の相手に出会って開花した三浦/木原組

フリー演技に臨んだ「りくりゅう」こと三浦/木原組。ほぼノーミスで自己ベストをたたき出した 【Getty Images】

 私が今回特筆すべきだと思うのは、ペアとアイスダンスの躍進です。特にペアの「りくりゅう」こと三浦/木原組は、事実上メダル獲得を決めた渾身の演技を見せましたね。2人は実はペアを組んでまだ2年半ですが、とても息が合っていて高い完成度を誇ります。木原選手はソチ、平昌に続いて3回目の五輪出場ですが、団体戦でのメダル獲得を逃して、責任を感じていました。「ペアが強くならないとメダルに届かない」という思いを強くしたんです。そこに三浦選手という身体能力のあるスケーターとの出会いがあり、相性も抜群だった。努力が結実して北京五輪で結果となって表れましたね。

 木原選手はもともとシングルの選手で、海外のグランプリシリーズにも出場する日本のトップスケーターでした。ペアの男子は女子を支えるなどジャンプを補助する筋力が必要なので、一から体づくりを重ねたと聞いています。三浦選手もシングル出身ですが、ペアの方が合っていた印象ですね。女子も筋力が必要なだけでなく、ツイストリフト(男性が女性を頭上に高く投げて、回転し終えて降りてくる女性を再び受け止める技)だとシングルのジャンプとは違って横回転になるので、難しさがあります。お互いに別のペアだった時期を経て、運命のパートナーに巡り合えたと言えるでしょう。

 木原選手も三浦選手も、お互いがお互いを思いやっていますよね。三浦選手が木原選手を信頼し、木原選手は三浦選手を大事にしている。そういう温かい2人の気持ちがリンクの上で花開いているように映ります。年の差もありますが、お兄ちゃんが妹をかわいがっているような感じです(笑)。そうした関係性は、ペア種目においてすごく大事だと思います。

 もう1つのカップル種目であるアイスダンスに関しては、小松原美里/尊組はフリーの点数だけを見ると5カ国中5位でした。ただ、強豪国がひしめく世界最高峰の舞台の同じ土俵で戦えていること自体がそもそもすごいことです。

 5日のリズムダンスでしっかり踊り切ったからこそ決勝に残ることができたし、フリーの曲「SAYURI」も日本らしい曲調が良かったと思います。GOE(出来栄え点)が思うように伸びなかったことが悔やまれますが、今後に期待できる内容でしたね。日本のフィギュアスケートにおけるペアとアイスダンスの歴史は浅く、長らく選手が育ちにくい環境でした。でも今回の団体戦の三浦/木原組、小松原美里/尊組の2組が多くの希望をもたらしてくれました。

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著者プロフィール

大阪府出身。フリーアナウンサー、スポーツライター。四国放送アナウンサー、NHK高知・札幌キャスターを経て、フリーへ。2011年に番組でパラスポーツを取材したことがきっかけで、パラの道を志すように。キャッチコピーは「日本一パラを語れるアナウンサー」。現在はパラスポーツのほか、野球やサッカーなどスポーツを中心に活動中。

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