トライアウトを“計6回”受験した古木克明 挑戦の末に辿り着いた「楽しさ」と「覚悟」
現役最後の1年で得たもの
通算6回、トライアウトに参加した古木。現在は参加回数に制限が設けられたため、“歴代最多参加”記録の更新はなさそうだ 【写真は共同】
「最後にハワイアンリーグでプレーすることができた。それまでは試合に出る環境がなかったですし、1年間ずっと『トライアウトのための練習』だけをしていましたから。もう1回、ちゃんとユニフォームを着てグラウンドに立てたのは、すごくうれしかったですし、すごく気持ち良かった。新たに気がついたこともたくさんありましたし、何より、野球が楽しかった」
野球そのものも、日本とは異なっていた。いい意味でも悪い意味でも「細かいことは気にしない」がハワイ流。日本では周囲と歩調を合わせ、ファンの目も気にしながらプレーしていたが、「今までちっちゃいことで悩んでいたんだな、と思った。人を大事にし、自由の中に責任がある」と古木。個無心になって白球を追った日々。2013年のシーズンを最後に2度目の現役引退を決断することになったが、「気持ち良く辞められた」と清々しく振り返る。
引退後に掲げた「新たな道」
「自由な発想の中で、新しい野球スタイルに挑戦して、野球の楽しさっていうのをどんどん伝えていきたい。僕自身がなぜ野球を嫌いになったのかを考えた時、もちろん自分自身の問題もありますけど、野球界全体の問題もあるんじゃないかなって思う。野球人気を回復させえるためはどうしたらいい。単純に“格好良い”という部分も必要でしょうし、空き地とか野原でやる野球本来の“楽しさ”というものを多くの人に感じてもらいたい」
2017年1月に『The Baseball Surfer(ベースボールサーファー)』というブランドを立ち上げ、起業家として様々な事業を展開。ファッション性の高いアパレルのオンライン販売、現在住んでいる神奈川県湘南地区を中心にした野球教室、一般の方が参加できるビーチでのイベント開催など、古木自身が楽しみながら、常に新しいことに挑戦。その中で自身の成長も感じている。
「例えば、1度目の引退後すぐに僕が野球教室で子供たちに教えられるかっていったら絶対に無理でしたね。トライアウトに挑戦していた中で、デーブ(大久保)さんや犬伏(稔昌)さん、清家(政和)さんに出会って、野球をイチから教えてもらって、守備でも打撃でも本当にいろんなことを学んだ。若い頃は理解できなかったコーチの言葉とかが、ようやくですけど、今はちゃんと理解できるようになった。だから、トライアウトに挑戦していた頃って、僕にとっては一番苦しい時期ではあったんですけど、そこでの経験があるから今の自分があると思っています」
大切にしたい「繋がり」と今後への「覚悟」
「まずは自分の事業を成功させること、追求していくということがあるんですけど、最近になって思うのは、プロの3軍のコーチになりたいっていうことです。3軍のコーチになって、自分が失敗してきたこと、格闘技の経験も含めて、今なら若い選手たちに伝えていけることがあるんじゃないかなって思うんです。そこから這い上がって行く姿を見たいというのもあります。無理かも知れないですけど、何が起こるか分からないですから」
プロ野球選手のセカンドキャリアの在り方については常に議論になるが、その中で人と人との「繋がり」は大事なものである。同世代のライバルであり、象徴であった松坂大輔が今季限りで現役を引退。1998年のドラフト会議で「松坂の外れ1位」でプロ入りした古木にとっても、やはり特別な存在であり、思うところがある。
「高校時代にライバルだって言われたことはありましたけど、僕の中では到底及ばない存在でしたし、『絶対に対戦したくない!』って思い続けたままプロになった。プロでの対戦も3打席だけだったと思いますけど、ぜんぜんバットに当たらなくて…。でも1本、ぼてぼての当たりがヒットになったことは覚えています。そこから(松坂)大輔が調子を崩して、後から『お前のせいで崩れた!』って怒られて…(苦笑)。でも、そういう風に言われたのはうれしかったですね。僕は球界の中での繋がりが少ない方だと思いますけど、松坂世代の一人としての誇りは忘れずに、55年会というものも大切にしていきたい。みんなで集まれるなら、僕が音頭を取ってもいい」
一度は野球を嫌いになり、「未練はない」と袂を分かった。だが、距離を置いたことで「愛」に気付き、「熱意」を取り戻し、「楽しさ」を再認識した。そこから様々な挑戦と経験を経た今は、「野球とともに生きて行く」という覚悟を固めている。
「もう引退してからだいぶ経ちますけど、今でも僕の名前を覚えてくれている方がいますし、自分なりに野球界を盛り上げていきたい」
古木の挑戦は、これから先も、続く。
「プロ野球戦力外通告」
【写真提供:TBS】
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