チームのサポートで蘇った“エース”張本 卓球男子「一丸」でつかんだ団体銅メダル

平野貴也

転機となった準々決勝のスウェーデン戦

男子団体準々決勝 スウェーデン戦の第1試合でプレーする丹羽孝希(左)、張本智和組=東京体育館 【共同】

 張本をサポートしたのは、ダブルスペアだけではない。大きかったのは、準々決勝のスウェーデン戦で見せた倉嶋監督のさい配だろう。水谷、丹羽、張本の3人で組むオーダーは、水谷&丹羽のダブルス、張本がシングルスで2本、水谷と丹羽がシングルスを1本ずつの計5本で構成するのが基本線。初戦の豪州戦も、準決勝、3位決定戦もこのオーダーだった。しかし、スウェーデン戦では、張本を丹羽と組ませてダブルスで起用。エースシングルスを水谷に任せた。結果、張本と丹羽がダブルスとそれぞれのシングルスを制して3-1で勝利した。

 このさい配は、スウェーデン戦を勝つというところにとどまらない効果があったように思う。初戦の豪州戦は、3-0のストレート勝ちだったが、張本の不調が気掛かりだった。プレーにも表情にも覇気がなく、メダル争いを期待されたシングルスで4回戦敗退を喫した影響が懸念された。スウェーデン戦でも通常オーダーで臨んでいた場合、もし勝ち上がったとしても、張本が敗れたり、苦戦したりするようであれば、準決勝以降でエースシングルスに起用することは難しかったはずだ。

 シングルスで相手のエース格2人を倒さなければならないというプレッシャーから解放された張本は、スウェーデン戦で復調の兆しを見せた。そして準決勝のドイツ戦は、チームとしては敗れたが、張本は相手のシングルス2枚を1人で撃破して本来のミッションを達成。持ち味の気迫あふれるプレーが復活した。

24年パリ五輪では圧倒的エースに

水谷からエースの座を引き継いだ張本。24年パリ五輪ではチームを引っ張る存在になってほしい 【Getty Images】

 3位決定戦では、初戦とは別人のように難局を強気で打開。強い張本が戻ってきた。本人は「練習が100だとすると、バックもフォアも50、60くらいしか出せていなかった。以前に中国の選手に勝ったときのバックハンドは、正直なかった」と話し、抜群のプレー内容というわけにはいかなかったようだが、それでも気迫で勝利をもぎ取る姿こそ、新たなエースに必要なものだった。張本を盛り立てたチームと、それに応えて新エースの働きを見せた張本がいて、銅メダルが取れた。貴重な経験を積んだ張本には、2024年のパリ五輪では、圧倒的エースとしての期待がかかる。水谷からエースの座を引き継いだ張本は、今大会の自身の戦いについて、こう振り返った。

「団体戦では全勝でしたが、リオ五輪のときの水谷さんの全勝と比べると、まだ安心感が足りないと思っています。リードされる場面も多かった。リオのときの水谷さんは、常にリードして、ちょっと粘られても最後逃げ切る戦いを見せていた。次の五輪ではもっと安心感を与えられるようなエースになれたらいいなと思います」

 チームを引っ張るエースの役割とは、振る舞いとは何か。それを東京五輪という最大の舞台で、周囲にサポートされながら身をもって学んだ経験が、次の飛躍につながるはずだ。倉嶋監督は「序盤は、本来のプレーができなかったと思いますが、団体戦では結局全勝。次の五輪につながる五輪になりました。最後、銅メダルがついてきて、メダリストになって勝って終われた」と話した。張本は仙台の出身。2011年東北大震災の被災地である東北、仙台にメダルを持ち帰って見せられることを喜んでいた。

 24年パリ五輪の顔ぶれがどうなるのかは、分からない。倉嶋監督は「張本は当然ながら、あと3年で下も伸びてくる。水谷はこの大会を集大成と言っているけど、僕はまだできると言っている。すごい若手が出てくるかも、水谷や丹羽がベテランの意地を見せるかも、張本以外のエースが出てくるかもしれない。そういう楽しみが3年後にあるんじゃないかと思います」と次の舞台への期待を語った。次の歩みの中心となる張本を育て、その力で進んだ張本が今度は引っ張る。そこから生まれる新たなエネルギーで卓球男子は、24年パリ五輪へと進んでいく。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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