価値あるメダルを求めて――テコンドー・鈴木兄弟が見せたい2つの姿

平野貴也

「五輪でメダルを取ってヒーローに」

6月に入り、体育館も再開され、本格的なトレーニングで汗を流している(写真手前が兄・セルヒオ、奥が弟・リカルド) 【写真:本人提供】

 兄弟には、五輪で2つの国に見せたい姿がある。1つは、南米の最貧国とも呼ばれるボリビアの子どもたちに希望を持ってもらうことだ。弟のリカルドは「ボリビアのテコンドー界に、良い報告をしたい。良い成績を出して、若い選手が支援を得られるようになるとか、良い影響が生まれれば」と話した。2人のように外国へ出る、あるいは海外を拠点に個人スポンサーを見つけるなど、決して簡単ではないが、世界へ出て活躍できる可能性はあると示したいのだ。

 ボリビアは、まだ五輪のメダリストが誕生していない。兄のセルヒオは「以前は、自分のためだけに頑張っているという感じでしたけど、大学のときに帰省して、今はボリビアで指導者になっている幼馴染から、いろいろな話を聞きました。才能のある子が頑張っていても、年齢を重ねると活躍する場がなくなるボリビアの現状はむなしい。どうにか環境を変えてあげたいという気持ちが強く芽生えました。五輪を身近に感じてもらう良い機会。やればできるんだと、少しでも身近に感じてもらえれば嬉しいです」と思いを語った。

 そして、もう1つ。日本で、テコンドーのイメージを良い方向に変える姿を見せたいという気持ちも持っている。

 マイナー競技でよく知られていない上に、協会の問題だけが脚光を浴びてしまったのは、マイナスだった。しかし、多くの人は、競技を見たことさえない。足技に特化した格闘技で、その技は、速くて華麗。弟のリカルドは「僕の友達でも、テコンドーを知らない人が多くて『ほかの格闘技の方がいいんじゃないの?』と言われることもある。テコンドーもすごいというところを日本の皆さんに見せたいです。蹴りの速さや美しさがあるし(高得点で派手な)回転蹴りもある」と一見の価値を熱っぽく語った。

 兄のセルヒオも、競技愛は強い。

「日本でのテコンドーのイメージを良いものに変えたい。そのためには、誰かが五輪でメダルを取ってヒーローになるしかない。オレがなってやろうじゃないかっていう、少年漫画みたいな気持ちを持ってやっています」

目標は、兄弟そろっての金メダル

弟・リカルドは国内屈指のパワーを武器にメダル獲得へ。目標は「兄弟そろっての金メダル」 【平野貴也】

 緻密に戦略を立てるのが得意な兄のセルヒオは、18年のアジア大会で銅メダルを獲得。やや荒削りながら国内屈指のパワーを誇る弟のリカルドは、そのポテンシャルの開花が望まれる。ボリビアからやって来た兄弟は、国をまたいで話題がシェアされ、マイナー競技も多くの人の目に触れる、五輪という大会の意義を存分に生かす可能性を秘めている。

 セルヒオは、言う。

「ここまで来るのに、たくさんの方に助けられた。その人たちのために、ボリビアのために、日本のために、ということを今は使命に感じているので、金メダルを取って、その生き様で何かを届けたいと思っています」

 目標は、兄弟そろって金メダル。どれだけの勝算があるかは分からないが、2人は、その歩みと背負う使命を考えたとき、この目標を掲げずにはいられない。ボリビア出身として、そして日本のテコンドー選手として、価値あるメダルを求めて兄弟は突き進む。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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