連載:LiLiCoイチオシ! コロナ疲れを吹き飛ばすスポーツ映画5選

『しあわせの隠れ場所』がLiLiCoに教えた人間の真の「優しさ」と「勇気」とは?

後藤勝

「良いコーチとは?」について考えさせられる

サンドラ・ブロック演じるリー・アンは、母としてだけでなくコーチとしても完璧だったとLiLiCoは語る 【© 2010 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved.】

 アメリカンフットボールの練習でも、コットンコーチは練習中、リー・アンに意見をされてしまう場面があります。ユーモラスに描いてあるので指導に横槍(よこやり)を入れた嫌な感じはあまりないんですけれども、そもそもあのお母さんはその人の得意、不得意を見抜くのが上手なので、言うことにも説得力があるんですね。実際、その場面では、マイケルに彼の役割を分かりやすく伝えることに成功しています。

 そのように、一人一人の個性を完璧に見るのがまさにコーチだと私は思うんですね。

 私が育ったスウェーデンには部活がなかったんですよ。

 プロレスとボディービルに手を染め、初めてパーソナルトレーナーをつけたんですけれども、そのときにコーチのなんたるかを実感しました。本当にいいコーチはその人を見るべきで、あらゆる人を汎用的に教えるマニュアル化されたコーチだと成功しないんですよ。

 自分のことで言うと、ボディービルをやるならば、本来はお酒をやめないといけないんですね。アルコールは筋肉を壊すから、だったら飲まなければいい。ところがコーチはお酒をやめたところでストレスが食欲に向かってしまう私に対して、アルコールを飲みつつもそれ以上に強度の高いトレーニングをすれば問題ない、と言ったんですね。

 発想の転換と言えばそうなんですけど、もちろんキツかったです。日本の大会で5位に入ったらコーチが褒めてくれて、私はマジで泣きながら「ありがとう」と言いました(笑)。

 もとはテレビの企画だったとはいえ、まるで人生のパートナーのようになり、今でも連絡を取り合います。本当は夜の8時までなのに、私の仕事が終わる夜の11時からトレーニングに付き合ってくれた。LiLiCoという一人の人間を見て、LiLiCoに合わせたトレーニングをする。そのように、その人の個性を活かして伸ばしていくのがコーチというものなのだなと理解しましたね。

 こういうところは親にも必要だと思うんですよ。
 
 だから、あのお母さん――リー・アン・テューイは完璧なコーチだと思います。

 この『しあわせの隠れ場所』に『アイ,トーニャ』のお母さん(ラヴォナ・ゴールデン)が入ってきてくれれば、リー・アンにけちょんけちょんに言われて(笑)、トーニャ親子の関係も良くなったはず。
 彼女の本職はコーチではないけれど、コーチの資質を持っていて、それを遠慮なくぶつけます。

 最後のほうで監査が入り、マイケルを母校のアメフト部に送り込もうと画策していたのではないかとリー・アンに疑いがかけられますけれども、本当にやりたいのかというマイケル本人の気持ちが大事なので、その点では彼女は間違っていなかったと思います。

 前半にバスケットボールで遊ぶシーンがありますけど、ほとんど手がリングについているからあれでも活躍できたとは思います。でもアメリカンフットボールをやるなかで彼の心が伸びていったわけだから、リー・アンは完璧にマイケルを読み取っていたんじゃないかと。

【© 2010 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved.】

 これは素晴らしい映画だと思います。よく知らない人物に「あなた映画コメンテーターでしょ。いい映画はないか」と尋ねられた時は、間違いなく『しあわせの隠れ場所』をおすすめしますね。好みの差を排してあらゆる人に薦められる。そうすると、だいたい男の人はあとから「良かったよ」と言ってくれる。そのくらい、誰にでも刺さると思うんですね。アメフトというテーマで日本人には刺さりにくいようにも思えますけど、ルールが分からなくても理解できる映画ですから。

 いい成長物語として描かれています。私もあのお母さんのようになりたい!

 サンドラ・ブロックがいい役者だというのはみなさんご存じだと思いますが、フィル・コリンズの実の娘であるリリー・コリンズをはじめ、いい役者がそろっていて、ぜひ観てもらいたいです。

(企画構成:株式会社スリーライト)

LiLiCo(映画コメンテーター/タレント)

【写真提供:プランチャイム】

1970年11月16日生まれ。スウェーデンストックホルム市出身。18歳で来日し、1989年に芸能界デビュー。2001年からTBS系『王様のブランチ』に映画コメンテーターとしてレギュラー出演中。その他、フジテレビ系「ノンストップ!」、J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」ほか出演番組も多数、イベント、声優・ナレーション、女優などマルチに活躍。2015年8月にはプロレスデビューを果たし、DDTプロレスリングでのタイトル歴はアイアンマンヘビーメタル級、DDT EXTREAM級。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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