川崎フロンターレ・谷口彰悟の魅力を高校時代の恩師が「顔」と語る理由

原田大輔

顔を見れば、選手の魅力は分かる

恩師の平岡はすぐに谷口の才能を見抜いたが、当の本人は練習について行くのに必死だった 【佐野美樹】

 ただ、中学を卒業したばかりの3月から遠征に参加させてもらったり、Aチームでプレーしていた谷口は、「何でいきなりAチームに絡めたのかが謎なんですよね」と首をかしげる。

「僕、正直、中学生のときはパッとしない選手だったんですよ。地元で有名なスタープレーヤーだったかといったら、そんなことはなくて。本当に普通の選手だったので。何で平岡先生は評価してくれているんだろうって、ずっと思っていたくらいなんです」

 本人が今も聞けずにいるというので、変わりに尋ねてみた。すると、そこでも平岡は「顔」といった。最初は冗談なのかと思っていたが、平岡はいたって真剣だった。

「谷口は端正な顔をしていますよね。立っている姿でそれが分かるんです。プレーにしても、1分ないしは2分見ただけで、その選手がJリーガーになれるか、日本代表になれるかが、僕には分かりますから」

 それはやはり、たたずまいであり、立ち居振る舞い、さらには目力といったところになるのだろう。そうした表情の奥底からにじみ出るものを谷口は持っていたし、平岡は感じ取ることができたのだ。それでも、高校1年生の谷口は「精いっぱい」でしかなかった。

「練習もついて行くだけで必死でした。というか、ついて行けてなかったですね。中学生と高校生では体格も違うじゃないですか。そうしたフィジカル的な違いもあったし、スピードや技術も差があった。正直、うわぁ、ついて行けないなって思ったときもありましたもん。入学してすぐにインターハイの予選があったんですけど、そのメンバーに自分も含めて1年生が4人くらい入ったんです。試合には出なかったけど、予選に勝って本大会の出場が決まって、そのメンバーにも自分は選ばれて。でも、正直、僕は戦える気がしなかった。それくらいきつくて。なんなら他の上級生が選ばれてもおかしくないのに、練習について行くのがやっとの自分が選ばれる。めちゃめちゃ気まずいというか、精神的にも苦しかったですね」

練習が厳しく、食事中に寝ることも

いつもクールで、冷静な谷口だが、高校時代を振り返ってもらうと、自然と熱を帯び、話は止まらなかった 【佐野美樹】

 どれくらい肉体的にも精神的にも追い込まれていたかというと、部活以外の行動に表れていた。

「朝練があるので、毎朝5時21分の始発電車に乗って学校に通っていたんですけど、放課後の練習を終えて、家に帰ってくるのが21時過ぎ。最初の半年くらいは、この生活に慣れるのが大変で。メシを食いながら寝てしまったり、お風呂で寝てしまったこともありましたね。口の中にご飯が入っているのに寝ちゃうって(笑)。それってもう、子どもというよりも、赤ちゃんがすることですよね(笑)」

 谷口は「平岡先生はそうした選手を何百人と見てきているので、きっと当たり前だと思っていたんでしょうけど」と笑う。まさにその通りだった。平岡が言う。

「そこは僕自身もそうでしたから。帝京高校での1年目は、ぶっ倒れてました。ただ、才能というのは僕の責任で終わらせてはいけないと常に思っているんです。本人があきらめなければ、そのパフォーマンスはどんどん前に進んでいく。指導者か選手本人のどちらかが怠れば、せっかくのポテンシャルがあっても終わってしまう。高体連からなぜ、優秀な選手が出てくるのか。それは名将や名伯楽と言われる先輩たちが、人を作るという作業を丁寧にやってきたからなんです。人を作るという意味において、若いうちから選手を鍛える理由は、その人間のスケールを大きくするためだと、僕は考えているんです。

 谷口もそうですけど、早い段階からメンバー入りさせて、大海に飛び込ませる。広い海を見させることも必要かなと思っていたんですよね。だから、谷口も、車屋紳太郎も、植田直通も、豊川雄太も、1年生のときからメンバーに入れてきた。本人たちにとっては、きっと苦しい時期だったかもしれないですけど、そこでしっかり根を下ろさないと、自信というものは積み上がっていかない。僕は、彼らと1000日間しか関われないので、その選手が未来に触れる機会を増やしてあげることができればなと。そのために、トレーニングはもちろんですけど、睡眠や栄養。時には休むことすら強制するんです」

 谷口に、平岡の印象について聞けば「雰囲気がある人」と語る。「グラウンドにいるだけで、自然と背筋が伸びるんです」と言って、その場で胸を張った。それとともに「言葉を持っていて、聞き入ってしまうところがあった」と教えてくれた。

 気がつけば、谷口について話を聞いていた筆者も、平岡の言葉に引き込まれていた。谷口が大津高校でどのような成長曲線を描き、今の糧になっているのかをより深く知りたくなっていた。(文中敬称略)

(企画構成:SCエディトリアル)

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【佐野美樹】

谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ。熊本県出身。川崎フロンターレ所属。DF/背番号5。183センチ/73キロ。地元・熊本県の熊本ユナイテッドSCでサッカーを始めると、熊本県立大津高校に進学。主にボランチとしてプレーし、高校2年生では全国高校サッカー選手権にも出場した。筑波大学を経て、2014年に川崎フロンターレへと加入すると、1年目から出場機会を得る。その後、センターバックとして定着するようになると、守備の要として活躍し、17年、18年のJ1連覇に大きく貢献した。15年から4シーズンにわたってリーグ戦全試合に出場。特に優勝した2シーズンはフルタイム出場を続けていた。

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5月17日(金)19:00キックオフ 川崎フロンターレvs.名古屋グランパス

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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