踏みとどまったドイツ、その強さの秘密 一か八かに頼らない「メンタルモンスター」
監督、選手たちはあきらめていなかった
アディショナルタイム5分、最後のチャンスでクロースが極上の業を見せた 【写真:ロイター/アフロ】
アディショナルタイム5分、ペナルティーエリア左外でFKのチャンスを得た。ロイスとクロースがボールをセットする。試合後にクロースがこの時の様子を明かしていた。
おそらく最後のチャンスだろう。クロスは相手の方が分がある。これまで何度も跳ね返された。それならばシュートか。ロイスは直接狙うことを提案した。クロースは同意しなかった。角度が悪すぎる。可能性を上げないと。そこでボールの位置をずらしてからのシュートを決断した。ゴールに向けてボールが行けば、何か起こる可能性は高くなるはずだ、と。
クロースはロイスにボールをチョンと預けて一歩踏み出し、右足を振りぬいた。見事な弧を描いたシュートがゴール右上隅へと吸い込まれた。普段はゴールを決めても、勝利をしても冷静なクロースが、グラウンドにひざまずき、両こぶしをたたきつけて喜んだ。どれほど追い込まれていたか。その心理的なプレッシャーは想像を絶せるものがあったはずだ。その中でみせた極上の業。
試合後にミュラーがテレビのインタビューに答えていた。息がまだきれている。試合後すぐのインタビューとはいえ、普段ならここまで呼吸が乱れていることは少ない。どれほどの試合だったのか。試合終了間際のゴールを語るミュラーに「しかも数的不利でのゴールでしたしね」とインタビュアーが相づちを打つ。するとミュラーは一瞬考えこんで、ふと思い出したように言葉を放った。「そう、そうか、1人少なかったんだよね」と。思い出す時間が必要なくらいプレーに没頭していたのだろう。
まずは目の前の戦いに勝たなければならない
最終節は韓国戦。もちろんまだ何も決まっていない 【写真:ロイター/アフロ】
だから、残り1分を切ってもゴール前への放り込みはしなかった。多くの長身選手を並べるスウェーデン相手に、それではゴールの可能性が高まらないからだ。クロースの決勝ゴールを生んだのも、左サイドでボールを持ったティモ・ベルナーが仕掛けたことで得たFKだった。
「この試合で僕らは本当の意味で大会に来たといえると思う」とミュラーは力強く語った。とはいえ、もちろんまだ何も決まっていない。最下位の韓国まで4カ国がグループリーグ突破の可能性を残している。27日の韓国戦も簡単な試合にはならないだろう。うまく突破できたとしても、決勝トーナメント1回戦でいきなりブラジルと対戦する可能性もある。だが、そのことを考えるのはまだ先だ。まずは目の前の戦いに勝たなければならない。そして、どの道を通ろうとも厳しい戦いは続く。それを乗り越えられる者しかタイトルを手にすることはできない。まだ、ここはグループリーグなのだ。