豪州が目指すのは“グッド・ルーザー”? 暫定監督と戦うロシアW杯に期待すること

植松久隆

前線の人材不足は深刻、若手の台頭は見られず……

長く代表で活躍してきたケーヒル(写真)も38歳。若手の台頭が望まれるが…… 【写真:ロイター/アフロ】

 新体制の船出となった3月の欧州遠征は、2戦で1分け1敗。初戦のノルウェー戦は、1−4と守備が破たん。続く強豪コロンビアとの対戦では、何とかクリーンシートを守った。守備に関しては、どちらの試合でも相手の速い展開にディフェンスが翻弄(ほんろう)されるのが目立っただけではなく、DFラインの連係に大きな綻びが見られた。しかし、これはレギュラー不在で急造ラインナップだったことを考慮に入れれば、今後の改善が見込める部分でもあり、致命的な痛手にはならない。

 むしろ、問題なのは攻撃陣、特に最前線の駒不足だ。慣れ親しんだオランダ流の「4−2−3−1(4−3−3)」のシステムで、鍵となる両ウイングの人材はマシュー・レッキーなど、比較的恵まれている。そこからボールを展開できたとして、最前線に不安が残るのだ。現在のセンターFW(CF)のファーストチョイスはトミ・ユリッチ。早くから期待された典型的なCFタイプのプレーヤーで、システムとの親和性も高いはずだが、およそ6年の代表キャリアで国際Aマッチ28試合出場8得点の成績が示すように、絶対的な存在にはなり得ておらず、その信頼性は決して高くない。しかし、現状のオーストラリアは、そんな彼の大舞台での”本格化”に期待しなければならない状況に立たされている。

 その原因は、平たく言えば、人材不足にある。ユリッチの座を脅かす若手選手が出てこないのが1つ。そして、もう1つは長く代表の金看板として活躍してきたケーヒルの衰えだ。ユリッチとは対照的に、国際Aマッチ103試合出場50得点という驚異的なペースで得点を重ねてきたレジェンドは、昨年、出番を求めてメルボルンを飛び出すも、なかなか移籍先が決まらず、ようやく古巣ミルウォールへの復帰が決まった。その後も出場はすべて短時間で、いまだノーゴールと精彩を欠く。スーパーサブとしての起用であれば充分に怖い存在だが、38歳のベテランに、かつてほどの神通力は残されていないのは明らか。ゆえに、26歳のユリッチには真のエースへの脱皮が期待されている。

“グループ最弱”の豪州は2位での通過を目指す

強豪コロンビアとの試合を引き分けで終えたオーストラリア。ロシア大会では、2位通過を目指すこととなる 【Getty Images】

 最後に、今大会のグループリーグにおける戦いを少しプレビューしてみよう。コンセプトは、“グループ最弱”という立ち位置から考えれば当然のことだが、「無駄な失点を避け、勝ち点を1つでも多く積み上げていく」こと。グループ2位での通過を狙うことになろう。

 初戦のフランス戦は、言うまでもなく最難関だ。ここは、現実的に「負けない戦い」をすることに尽きる。勝ちは厳しいとして、良くて引き分ける。得失点差を考えた時には、負けるにしても、惨敗は避けなければならない。次のデンマーク戦は、フランスに惨敗して臨むのであれば勝ちにいく必要があるが、そうでない場合は無理せず、引き分け狙いで、勝ち点が1が得られれば御の字だ。

 そうすると、勝負はペルーとの最終戦ということになる。ここには全力で勝ちにいく姿勢が求められる。ここのところ、先月のコロンビア戦(0−0)、そして、昨年のコンフェデレーションズカップでのチリ戦(1−1)と、強敵相手に負けがない。それだけに、個人的には、欧州勢より南米勢の方が相性が良いように思う。テクニックとパスワークにある程度付いていければ、充分に勝機はある。ここで何とか勝ち点3をもぎ取れれば、2位通過の可能性が見いだせるし、「1勝1分け1敗」での勝ち点4も見えてくる。裏の試合の結果次第の他力本願ではあるものの、予選通過の目は残るだろう。

 そこで、もし16強にすべり込むことができたならば、その後の結果はボーナスで、ベスト16に勝ち上がった時点で、すでに大会後の退任が決まっている“暫定監督”のファン・ワルマイクの仕事は、「Job well done(うまくいった)」ということになる。

 大会後、オーストラリア代表の指揮官の座には、今や国内一の名将と誉れ高いグラハム・アーノルドが返り咲くことが決まっている。ロシア大会では、長期政権が予想される新体制にうまくつながるような結果を望むのが世論の大勢だ。あまり高望みはせず、全力を尽くして“グッド・ルーザー”として大会を去るサッカルーズに拍手を送ることができればそれでいい――オーストラリアにとってはそんな大会になりそうだ。

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著者プロフィール

1974年福岡県生まれ。豪州ブリスベン在住。中高はボールをうまく足でコントロールできないなら手でというだけの理由でハンドボール部に所属。浪人で上京、草創期のJリーグや代表戦に足しげく通う。一所に落ち着けない20代を駆け抜け、30歳目前にして03年に豪州に渡る。豪州最大の邦字紙・日豪プレスで勤務、サッカー関連記事を担当。07年からはフリーランスとして活動する。日豪プレス連載の「日豪サッカー新時代」は、豪州サッカー愛好者にマニアックな支持を集め、好評を博している

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