東京V監督が重要視する判断基準と哲学 ロティーナ「成長プロセスを見てほしい」

小澤一郎

選手を数字やキャリア、実績で評価はしない

高卒1年目の藤本を起用する理由を「一番ふさわしい選手だから使っているまで」と話し、「数字やキャリア、実績で評価しない」と持論を展開 【(C)J.LEAGUE】

――今、東京Vで採用しているプレーモデルとはどういうものですか?

 現在欧州トップレベルのクラブで実践されているような、いわゆるモダンサッカーのそれに近いものだ。イメージとしてはチェルシー、マンチェスター・シティ、バルセロナといったクラブが導入しているような最新のもの。もちろん、欧州トップクラブのプレーモデルをそっくりそのまままねすることはできないので、われわれのチームに合わせた形で可能な要素を取り入れようとしている。

――そのプレーモデルにおいて、今季はどういう要素を進化させたいと考えていますか?

 フィニッシュ局面での精度を高めたい。もちろん、守備のオーガナイズ、プレッシングといった全ての要素のレベルアップを図ろうとしているが、中でもファイナルサードでのプレーの向上をテーマに掲げている。

――アカデミーから昇格した高卒1年目の藤本寛也がいきなり開幕デビューを飾りました。日本では「外国人監督の方が日本人監督よりも若手抜てきがうまい」という意見があるのですが、どういう視点で藤本のような若手を評価・起用しているのでしょうか?

 一般論としては、クラブにとって若い選手が数多くプレーすればするほどいいものだ。世界のごく一部のクラブを除き、大半のクラブは選手を引き抜かれる立場だから若い選手であればより高い価値、移籍金がつく。

 ただ、正直なところ年齢も含めて選手を数字やキャリア、実績で評価することはない。あくまで現時点で誰がこの試合でのベストな11人かという視点で選手選考をしている。その中で開幕戦、第2節とカンヤ(藤本)は先発11人に実力で入ってきたまでだ。若いことは承知しているが、若さが選考理由ではなく、彼がプレーしているポジションに一番ふさわしい選手だから使っているまでだ。

サッカーにおいて判断はとても重要だ

「プレミア、ブンデス、ラ・リーガの試合を見ても個人戦術、判断のミスは数多く見える」とロティーナ監督 【スポーツナビ】

――昨季からポジショニングや個人戦術など本来は育成年代までに身につけておくべき項目の指導にも時間を割いて行っている印象を受けますが、実際のところどうなのでしょう?

 実際、今日の練習でも映像を見ながら特定の選手に対して個人戦術の話をした。試合においてはプレーではなく判断のミスに気づかない選手もいるので、個人戦術に立ち返って一つ一つ丁寧に指導していくことはプロの世界でも必要だと思う。逆にいいプレー、われわれが考える正しいプレーをしたことを認識していない選手もいるので、その評価もフィードバックするようにしている。サッカーにおいて判断はとても重要であり、選手がピッチ上で複数の解決策を持って正しい判断を選ぶことも大切だ。

 選手の判断については、日本とスペインで指導のアプローチを変えている。スペインでは選手に何をしてはいけないかという基準を植え付けるようにしていたが、日本ではこの状況では何をすべきかという基準を示すようにしている。ただし、サッカーにおいて同じ状況というのは発生しない。説明すると難しく聞こえるがとてもシンプルなことで、同じプレーというのは二度と起こらない。

 選手が理解すべきは、似た状況が発生する可能性があるということだ。中にはプロの世界に入ってきた選手はもう全てを知っているものだと理解して指導する監督もいるが、私はそうではないと考えている。実際、プレミア、ブンデス、ラ・リーガの試合を見ても個人戦術、判断のミスは数多く見える。たとえプレーがうまくいったように見えても実際には正しい判断、プレーの実行プロセスを踏んでいないケースがある。そこで監督はきちんと修正しなければいけない。

 選手のタレント性、能力でピッチ上での問題を一時的に解決できていたとしても、最終的に正しい判断でプレーを支配できる選手にならなければ競争の激しいエリートの世界で生き残っていくことはできない。

――最後に、サポーターに今季約束するものは?

 目に見える形でのいい仕事、成長プロセスだ。その土台にはいいフィロソフィーがある。一般的には、確固たるフィロソフィーに基づいたいい仕事をすれば結果は出る。しかし、サッカーは勝ち負けのあるスポーツなので必ずしも分かりやすい結果が出るわけではない。

 サポーターの皆さんには、チームの成長プロセスを見てもらいたい。サッカーにはミスがつきもので、選手は人間だ。だから、先週できていたことが今日の試合でうまくできないこともあるだろう。それでもわれわれはそういった選手のミスを一つ一つ修正していくため、長いシーズンで見れば選手、チームとしての成長が必ず見えるはずだ。今の私は、監督という職業をこれまで経験したことがないほど楽しむことができている。だからこそ、いい仕事をしてサポーターの皆さんに少しでも恩返しをしたいと考えている。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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