羽生結弦がSP後に語った“感謝” ファンや仲間、スケートを滑れる幸せに

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心の中の弱さをさらけ出せる強さ

感謝の言葉を並べた羽生、演技後も満足の笑顔を浮かべた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 さまざまなことに感謝しながら過ごしていれば、それは自然と行動にも表れる。トップ3会見でも、羽生は柔らかな口調で質問に答え、両隣に座ったハビエル・フェルナンデス(スペイン)と宇野昌磨(トヨタ自動車)が話しているときは、顔を向けて笑みを交えながら耳を傾けていた。羽生に質問が飛ぶと、そこでも述べるのは「スケートを滑れる楽しさ」や「応援してくれるファンへの感謝」だった。

「僕はフィギュアスケートというスポーツをやっていて、幸いにもたくさんの方々が応援してくれる。なかなかアスリートで世界中から応援される選手はいないと思います。その限られた選手の1人として、たくさんの人からパワーをもらっています。僕はメンタル的にもそんなに強いわけではないですし、フィジカル的な部分ではケガが多かったり、風邪も多かったりします。そういう中でも試合で力を発揮できるのは、皆さんの応援があってこそで、僕がそれに応えようと思えるからだと感じています」

 五輪や世界選手権を制した男が「メンタルがそんなに強くない」というのも驚きだが、そうした心の中に宿る弱さをさらけ出せるのもまた羽生の強さなのかもしれない。実際、苦しいとき何かに頼りたくなることは誰にでもある。羽生もソチ五輪を経験しているからこそ、その怖さを肌で理解しており、なおかつケガからの復帰戦だ。「五輪を知っているのは僕の強みでもあり、そのソチ五輪でSPをノーミスしていたからこそ、そこにすがりたくなる気持ちもたくさんあった」というのも、当然と言えるだろう。

 それでも「ケガをして3カ月間、試合に出られなかったことで、今は非常にスケートが楽しいんです。今回は皆さんの前で滑って、皆さんが応援してくれるのを如実に感じられた試合だったので、そういう意味では皆さんからパワーをもらってSPを無事に滑れたのかなと思います」と、羽生は再び感謝を示していた。

会見で語った仲間へのリスペクト

共に戦う仲間へのリスペクトも忘れない 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 フリーに向けては「特に何も考えていない」という。これまでもその日できることを懸命に取り組み、翌日は翌日にやるべきことをやっていくというスタンスを保ち続けてきた。66年ぶりとなる五輪連覇が懸かっていようと、それを変えることはない。SPを終えた瞬間、頭をよぎったのは「明日がある」という気持ち。演技の出来には満足しているが、それはもう過去のことだ。

 トップ3会見の最後には、こんなことを語っていた。

「僕はハビエル選手の世代(26歳)と比べると少し若くて(羽生は23歳)、宇野選手の世代(20歳)から比べると少し古くて、中途半端な位置にいます。僕が出る試合はいつもお兄さんみたいな先輩がいて、僕のことを慕ってくれる後輩、それから日本の仲間、世界中の仲間がいる。だから戦っている感覚がほとんどないんです。とにかく一緒にスケートをやっているのがうれしいし、何よりも皆、素晴らしいスケートを持っている。みんなのスケートがたくさん見られるように祈っていますし、僕もその中で演技をしたいなと思っています」

 共に戦う仲間をリスペクトし、ファンへの感謝は忘れない。そしてスケートを楽しむ心は五輪の舞台でも変わらない。たとえフリーがどのような結果に終わろうとも、羽生は滑っている瞬間、確かに幸せを感じているのだろう。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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