講道館杯初V、阿部詩はモノが違う! 兄・一二三と「兄妹の時代」来るか

布施鋼治

「自分に自信を持てるようになった」

阿部(左端)はグランドスラムで角田(左から2番目)、志々目(右端)と頂点を争う 【写真:アフロスポーツ】

 昨年の講道館杯では今年の世界選手権で2位の角田夏実(了徳寺学園職員)の腕ひしぎ十字固めに屈して3位に終わっている。ヒロインインタビューで去年と比べて成長した部分を問われると、阿部はハッキリと答えた。「自分に自信を持てるようになったことです」

 そうなったのは今年2月、IJFワールド柔道ツアーのひとつ『グランプリ・デュッセルドルフ』を史上最年少で優勝したことがきっかけだった。

「大会前は1回か2回勝てばいいと思っていた。いまの自分はそのくらいの実力だと思っていたら、優勝することができた。あの優勝が一番大きかったと思います」

 何かをきっかけに、人は大きく飛躍する。今大会の優勝によって、阿部は12月2・3日に開催の『グランドスラム東京』(以下グランドスラム)へと駒を進めた。

 しかしながら、この大会の頂きを極めるのは至難の業と言える。今年の世界選手権52キロ級で決勝を争った志々目愛(了徳寺学園職員)と前述の角田も出場することがすでに決まっているからだ。

 阿部は昨年のグランドスラムにも出場しているが、決勝で直前の講道館杯の時と同じように角田の腕ひしぎの前に涙をのんだ。通算戦績では勝ち越しているが、志々目にも今年4月の『全日本選抜柔道体重別選手権大会』(以下・体重別)で逆転負けを喫している。海外勢の対策もさることながら、阿部はかつて辛酸をなめさせられた国内にいる世界選手権優勝者と準優勝者をマークしなければならない。

スーパー高校生、第一関門を突破

日本代表に選ばれるためには、まだこの先も勝ち続けなければならない 【奥井隆史】

 講道館杯は、グランドスラムと2018年からの海外遠征の出場権利を得るための大会と位置づけられている。今回のグランドスラムで詩とのアベック優勝が期待されている実兄・阿部一二三(日本体育大)は、一昨年の講道館杯で3位に終わったために同年のグランドスラムへの出場権を逸し、目標としていたリオデジャネイロ五輪出場の道を閉ざされた。

 つまり講道館杯で優勝してグランドスラムや海外遠征でも好成績を収め、体重別でも結果を残さなければ、日本代表に選ばれることはない。現在の阿部は″スーパー高校生″というべき規格外のスケールを感じさせるが、冷静に見ればまだ第一関門を突破したばかり。

 記者団に囲まれたインタビューのさなか、阿部は3日前から風邪気味だったことを打ち明け、コホンコホンと小さな咳をしながらグランドスラムへの抱負を述べた。

「去年よりは研究されていると思う。海外でも結構知っている選手が多くなった。厳しいかもしれないけど、そこをどう勝ち抜くか」

──志々目と角田、どっちの方が怖い?

「う〜ん、怖さでいったら志々目さんかな。やっぱり世界一になって絶好調だと思うので。勢い(を持っている選手)が一番怖い。この1年で関節技にも結構反応できるようになってきました。まだまだ角田さんのように、うまい人にかけられたらどうなるかという部分もあるけど、これからもっともっと研究していきたいと思います」

 小4から阿部を指導する夙川学院高の松本純一郎監督は親バカと言われるかもしれないけどと前置きしながら明るい青写真を描く。

「いつも技を受けている私から見ても、阿部の技のキレが一番。(グランドスラムで)勝ったら、阿部の時代が来る」

 兄とともに、どこまで強くなるのか。

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著者プロフィール

1963年7月25日、札幌市出身。得意分野は格闘技。中でもアマチュアレスリング、ムエタイ(キックボクシング)、MMAへの造詣が深い。取材対象に対してはヒット・アンド・アウェイを繰り返す手法で、学生時代から執筆活動を続けている。Numberでは'90年代半ばからSCORE CARDを連載中。2008年7月に上梓した「吉田沙保里 119連勝の方程式」(新潮社)でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他の著書に「東京12チャンネル運動部の情熱」(集英社)、「格闘技絶対王者列伝」(宝島社)などがある。

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