ボルトや日本人ランナーの特徴とは? 男子100メートル選手をタイプ分け

大西正裕

21歳新鋭の驚異的なスタート

コールマン(左から2人目)の弾丸スタートは、ライバルたちにも脅威となっている 【Photo by Andy Lyons/Getty Images】

 同じピッチ型でありながら、デグラッセとは違う前半型の選手が21歳のクリスチャン・コールマン(米国)だ。今季9秒82と100メートルのランキングトップ記録を持ち、勢いに乗る若き才能は、スタートから高いピッチを武器に加速していく。自分のリズムで地面を捉え始めたら最後、追いつくのは至難の技である。

 一方で、ハイレベルなレースではまだ経験不足が否めず、終盤での動きの硬さも見られる。全米選手権では、同じく前半を得意とする母校の先輩ガトリンをゴール直前までリードしながら、最後に逆転を許してしまった。

 ピッチ型の選手は、一度自分のリズムを崩すと空回りしてしまい、立て直すことが難しい。このあたりの経験を、若さと勢いで乗り越えることができるか。ライバル選手にとってもガトリンを置き去りにした弾丸スタートは脅威だろう。

スタートダッシュが持ち味の多田は、世界陸上でもその特長を発揮できるか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 弾丸スタート、新星の日本人選手といえば、多田修平(関西学院大)があてはまる。5月のゴールデングランプリ川崎ではガトリンも驚くスタートダッシュを決め、リードを奪った。初代表となる今大会でもスタートがカギとなる。

ボルトと同タイプの日本選手は?

3メートル近いストライドから生み出されるボルトのトップスピードは頭ひとつ抜けている 【写真:ロイター/アフロ】

 前述した3つのタイプとは異なる、ストライド型かつ後半型の代表的な選手にはボルトが挙げられる。大きなストライドからゴール前で相手を一気に抜き去るのがボルトの特徴だ。ケガなどのアクシデントにより北京大会、リオ五輪ではライバル選手にリードを許しながら、ゴール前で捉えて一蹴。絶対王者として不動の地位を築いている。身長195センチ、3メートル近いストライドから生み出されるトップスピードは、現役選手の中でも頭ひとつ抜けている。

 世界陸上へ向けて懸念点を挙げるとすれば、日程とレース勘か。男子100メートルの準決勝と決勝は同日に行われるため、レース間での回復にやや不安が残る。

 また、ボルトはスタートに難がある。前半にリードされることをどこまで許容できるのか。今季は大会出場が少なく、追い上げるためのレース勘にも不安が付きまとう。自身のラストランを飾るため、状態を上げていく必要がある。

ボルトと同タイプのサニブラウン(右)とケンブリッジ(左)。日本人初となる9秒台とファイナリストを狙う 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ボルトと同タイプの日本代表選手といえば、サニブラウン・ハキーム(東京陸協)とケンブリッジ飛鳥(NIKE)だ。共に日本選手権では自己記録を更新し、日本人初となる9秒台とファイナリストを狙う。国内では多少の出遅れがあっても後半に追い上げることができたが、世界陸上ではそう簡単にはいかないだろう。海外でのレースを積極的に増やし、経験を積んできているだけに本番での活躍に期待したい。

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著者プロフィール

1987年生まれ。順天堂大学大学院でコーチング科学、スポーツ心理学を専攻。為末大が監修する「TRAC」(http://trac.tokyo)かけっこスクールでコーチを務め、足を速くするためにエビデンスに基づく指導を行っている。JAAFジュニアコーチ、中高保健体育専修免許、講道館柔道初段。

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