ナイキの新機軸レーシングシューズ 市民ランナーの目標達成にも貢献することはできるのか!?

南井正弘

日本では入手困難

 前述の通りナイキの厚底レーシングシューズシリーズには2時間切りを目指すアスリートのために用意されたナイキ ズーム ヴェイパー エリート、サブ3レベルのランナーに最適なナイキ ズーム ヴェイパー フライ4%、そしてサブ3.5レベルのランナーにピッタリなナイキ ズーム フライの3モデルがラインアップされているが、今回筆者が手に入れることができたのはナイキ ズーム フライであり、スポーツナビDo読者にはこのシューズが最も関連があると思う。

 日本では入手困難となっており、オーストラリアのゴールドコーストでもUSサイズ9以上しか在庫されていなかったので、たまたま出張で訪れたロサンゼルスエリアで購入。サンタモニカのナイキストアではUSサイズ8は売り切れていたが、スタッフに他店舗の在庫を確認してもらうと、ハリウッドに近い屋外型ショッピングセンターのThe Groveのナイキストアなら5足在庫があるということで、そちらで手に入れることができた。試着すると自分は従来のナイキのランニングシューズとのフィット感の違いはあまり感じられなかったが、足型によっては足長が長く感じるかもしれないと思った。

従来のランニングシューズとは明らかに異なる感覚

 日本に帰国後実際に走ってみると、まず感じるのはミッドソールのかかと部分が3cm以上ある厚底でありながらホカ オネオネのシューズのようなミッドソール素材の沈み込みやフワフワとした感覚はないこと。固い印象はないが、それ以上に柔らかいということは決してない。これにはミッドソールに内蔵されているフルレングスのカーボンナイロンプレート(ナイキ ズーム ヴェイパー エリートやナイキ ズーム ヴェイパー フライ4%の場合はカーボンファイバープレート)が関係しているかもしれないと思った。

 徐々にスピードを上げていって感じたのは、オフセットやドロップと呼ばれる踵とつま先の高低差は10mm以上あるが、シューズの特徴として、ヒール部分で着地するよりも中足部や前足部で着地したほうが走りやすいこと。そしてカーボンナイロンプレートは反発性を高める意味よりも、このプレートがガイド役となって、スムーズな着地から蹴り出しに大きく貢献していることが理解できた。このシューズを履いてしばらく走ると、シューズを転がすような感覚で走ることができるはずで、体重移動がとてもスムーズ。自然と身体が前方へと送り出されるこの感覚は従来のランニングシューズとは明らかに異なる。これまでもロッカー(ゆりかご)状にアウトソールを成型することで効率的な足の運びを追求したシューズは存在したが、このシューズほど着地から蹴り出しまでの動きを自然とサポートしてくれるモデルは存在しなかったと思う。テニスラケットのスイートスポットや野球のバットの真芯でボールを捉えるとあまり力を入れなくてもボールは飛んでいくのと同じように、ナイキ ズーム フライというシューズにマッチしたポイントで着地及び蹴り出しをすることで想像以上にランナーのストライドは軽くなる気がする。

 また従来のレーシングシューズはクッション性よりも脚力をより路面に伝達するためにミッドソールは薄めなのが常識であったが、ナイキ ズーム フライでは脚力を路面へとしっかり伝えつつ、足の保護性も確保している点が新しい。

 一度目のランでこのシューズの特性を知ったので、二度目のランではよりナイキ ズーム フライのポテンシャルを引き出すべく、着地は土踏まずよりも前方かつカラダの真下、脚全体を回転させるように動かすのを前回以上に意識することで、本当に効率よく走ることができ、あまり脚力を使っている感覚はないのに、km/5分05秒ほどのペースとなっていた。これならサブ3.5やサブ4達成にも大きく貢献しそうだ。

自己記録更新の大きな武器となる可能性

かかと側から見てもわかるように従来のレーシングシューズと比較してかなり厚めのミッドソールだ。EVA系のミッドソール素材は購入段階でシワが見られ、走るとさらにシワが増えるのが気になったが、そのことでクッション性が極端に落ちるようなことは感じられなかった。 【写真提供:南井正弘】

 ナイキ ズームフライを始めとしたナイキの厚底レーシングシューズは、当初カーボンファイバープレートやカーボンナイロンプレートによる反発性の高さが噂されたが、実際には前述のように反発力よりも着地から蹴り出しまでの効率的な動きの補助を強く感じることができた。ナイキ ズーム フライには着地時に過度に脚が内側に倒れこむオーバープロネーションを抑制するダイナミックサポートのようなテクノロジーが装備されていない点は一部のランナーには残念だが、ニュートラル着地のランナーなど、シューズの特性がマッチするランナーには自己記録更新の大きな武器となる可能性があるだろう。

ナイキ ズームフライのアウトソールの刻みは浅いので、土や芝生といったオフロードよりもアスファルトやコンクリートといったオンロードで高いグリップ性を発揮する。 【写真提供:南井正弘】

2/2ページ

著者プロフィール

フリージャーナリスト。1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツブランドのプロダクト担当として10年勤務後、ライターに転身。スポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズを得意分野とし、『フイナム』『日経トレンディネット』『グッズプレス』『モノマガジン』をはじめとしたウェブ媒体、雑誌で執筆活動を行う。ほぼ毎日のランニングを欠かさず、ランニングギアに特化したムック『Runners Pulse』の編集長も務める

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント