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大坂なおみ、肌で感じた女王との差
初めてのウィンブルドンで得た経験

勝機を逃さないビーナスの強さ

第1セットのタイブレークでは、7ポイント連取をしたビーナス
第1セットのタイブレークでは、7ポイント連取をしたビーナス【写真:Shutterstock/アフロ】

 果たして待望のその試合は、会場で2番目に大きなスタジアム“第1コート”に組まれた。ほぼ満席の観客が、新スター誕生の瞬間を見られるかもしれないとの予感を胸に、18歳の年齢差対決を見守る。その状況に臆することもなく、大坂は自慢の右腕を鋭く振り抜き、ウイナーも連発した。第4ゲームをブレークされ一時は1−4と劣勢に立つも、第7ゲームではリターンから攻めてブレークバック。以降は両者ともに、時速190キロに達するサーブを軸に、危なげなく自分のゲームをキープしていく。高いレベルの均衡を保ち加速する展開は、タイブレークに走り込んだ。


 ここで大坂は、3連続ウイナーでいきなり3−0とリード。しかしここからミスが増え、逆にビーナスは若い相手の空回りを読み取ったかのように、リスクを減らし淡々とプレーを進める。大坂は7ポイント連続で落とし、第1セットはビーナスの手に渡った。


 それでも第2セットでは、先にチャンスをつかんだのは大坂。第4ゲームでビーナスの連続ダブルフォルトもあり、ブレークポイントを手にした。しかしここを凌がれると、第7ゲームで危機を迎える。デュースの場面では、見逃せばアウトになるだろうボールに手を出し、ボレーを大きくふかしてしまった……。このプレーを機にブレークを許し、試合の流れもビーナスに手渡してしまう。老獪(ろうかい)な女王は、以降は手にした手綱を緩めることなく、そのまま勝利へと駆け込んだ。


 うなだれコートを去る19歳の挑戦者の背に、大きく温かい拍手が送られる。大坂は通路に姿を消す直前に、思い出したかのように小さく手を振り、その声に応えた。

ウィンブルドンの1番コートで得た経験

試合後、握手する大坂(左)とビーナス。ウィンブルドン第1コートの経験は「多くを得た経験」となった
試合後、握手する大坂(左)とビーナス。ウィンブルドン第1コートの経験は「多くを得た経験」となった【写真は共同】

「テニスそのものの大きな差はないと思う。ただこの舞台で戦うには、メンタリティが十分でないと感じた」

 試合後の大坂は、勝敗を分けた要因を振り返る。

「ビーナスは試合を通じてずっと落ち着いていたのに対し、私はイライラしたことがあった。それは経験の差だと思う」


 具体的にはいつ、彼女はイライラしてしまったのか?

「特にタイブレーク…‥7ポイント連続で落とした時が、一番イライラしていた」

 恥ずかしそうに、彼女は振り返った。


 グランドスラムのセンターコートは、既に全米オープンで、そして全豪オープンで経験した。それでも大坂は、今回のウィンブルドンの1番コートでの戦いの方が、「多くを得た経験」だと明言する。


「全米オープンの時の方がコートは大きかったけれど、今日の試合の方が、意義が大きかった」


 その意義とは、憧れの対戦相手が生むものか、あるいは“聖地”が誇る140年の歴史が醸成する風韻なのか……。その特別な空間で、19歳の大坂は経験と実績に裏打ちされたビーナスの強さを知り、同時に、その相手にも自分のテニスは通用することを肌身で知る。そして「浅くなったボールや、こちらの一瞬の逡巡(しゅんじゅん)をビーナスは見逃さない。私は、攻めきれないことが多かった」と、目指す存在と自分の差に、冷静に目を向けた。


「いつかこの舞台で、優勝する自分の姿をイメージできるか?」

 そう問われた大坂は、「いつか」の部分を否定するように即答した。


「私は今大会でも、自分が優勝する姿を思い描いていたわ」


 実際に先の全仏オープンでは、同期のエレナ・オスタペンコ(ラトビア)が優勝した。その盟友の姿が、モチベーションになったとも彼女は言う。


 今この瞬間にも最大の“果実”を追いながらも、現実的には、得た課題を次につなげることを誓う。


 その道を進む限り、「いつか」は遠くない未来に、きっと「今」と重なりあう。

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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