大坂なおみ、肌で感じた女王との差 初めてのウィンブルドンで得た経験
勝機を逃さないビーナスの強さ
第1セットのタイブレークでは、7ポイント連取をしたビーナス 【写真:Shutterstock/アフロ】
ここで大坂は、3連続ウイナーでいきなり3−0とリード。しかしここからミスが増え、逆にビーナスは若い相手の空回りを読み取ったかのように、リスクを減らし淡々とプレーを進める。大坂は7ポイント連続で落とし、第1セットはビーナスの手に渡った。
それでも第2セットでは、先にチャンスをつかんだのは大坂。第4ゲームでビーナスの連続ダブルフォルトもあり、ブレークポイントを手にした。しかしここを凌がれると、第7ゲームで危機を迎える。デュースの場面では、見逃せばアウトになるだろうボールに手を出し、ボレーを大きくふかしてしまった……。このプレーを機にブレークを許し、試合の流れもビーナスに手渡してしまう。老獪(ろうかい)な女王は、以降は手にした手綱を緩めることなく、そのまま勝利へと駆け込んだ。
うなだれコートを去る19歳の挑戦者の背に、大きく温かい拍手が送られる。大坂は通路に姿を消す直前に、思い出したかのように小さく手を振り、その声に応えた。
ウィンブルドンの1番コートで得た経験
試合後、握手する大坂(左)とビーナス。ウィンブルドン第1コートの経験は「多くを得た経験」となった 【写真は共同】
試合後の大坂は、勝敗を分けた要因を振り返る。
「ビーナスは試合を通じてずっと落ち着いていたのに対し、私はイライラしたことがあった。それは経験の差だと思う」
具体的にはいつ、彼女はイライラしてしまったのか?
「特にタイブレーク…‥7ポイント連続で落とした時が、一番イライラしていた」
恥ずかしそうに、彼女は振り返った。
グランドスラムのセンターコートは、既に全米オープンで、そして全豪オープンで経験した。それでも大坂は、今回のウィンブルドンの1番コートでの戦いの方が、「多くを得た経験」だと明言する。
「全米オープンの時の方がコートは大きかったけれど、今日の試合の方が、意義が大きかった」
その意義とは、憧れの対戦相手が生むものか、あるいは“聖地”が誇る140年の歴史が醸成する風韻なのか……。その特別な空間で、19歳の大坂は経験と実績に裏打ちされたビーナスの強さを知り、同時に、その相手にも自分のテニスは通用することを肌身で知る。そして「浅くなったボールや、こちらの一瞬の逡巡(しゅんじゅん)をビーナスは見逃さない。私は、攻めきれないことが多かった」と、目指す存在と自分の差に、冷静に目を向けた。
「いつかこの舞台で、優勝する自分の姿をイメージできるか?」
そう問われた大坂は、「いつか」の部分を否定するように即答した。
「私は今大会でも、自分が優勝する姿を思い描いていたわ」
実際に先の全仏オープンでは、同期のエレナ・オスタペンコ(ラトビア)が優勝した。その盟友の姿が、モチベーションになったとも彼女は言う。
今この瞬間にも最大の“果実”を追いながらも、現実的には、得た課題を次につなげることを誓う。
その道を進む限り、「いつか」は遠くない未来に、きっと「今」と重なりあう。