【ボクシング】不幸なジャッジに栄冠を逃がした村田 不明瞭な判定基準は不信の原因に
唯一の難点は守りと攻撃のつなぎ
KO、TKO決着ではない場合、判定が委ねられるため『controversial decision』はしょうがないが、今回のそれは納得し難いものであった 【赤坂直人/スポーツナビ】
論争を招く決定を『controversial decision』と呼ぶ。KOやTKOで終わらなければ、ボクシングも3人のジャッジに委ねられる判定競技なのだから、『controversial decision』は決して珍しい話ではない。とはいえ、20日の試合については、いったい何を論争しなければならないのかも分からない。
一般にボクシングの採点基準とは以下の4点を競うことになっている。
(1)有効打
(2)攻勢
(3)防御
(4)リングジェネラルシップ
有効打はその読みのとおり。(2)と(3)は「有効な攻撃を伴う」と但し書き付き。(4)は試合態度や有効打を生みやすい戦術である。
いずれの項目でも、多数の見方では村田が上回っていた。エンダムが有利だったとされる『手数』は(2)に該当するが、付帯条件と照らし合わせるとこれも何とも心細い根拠に過ぎない。
それでも重箱の隅をつつくとすれば、「もしかすると慎重に過ぎたかも知れない」と村田自身が言ったように、攻め数が少なく、相手の打ち終わりに照準を絞りすぎて守りと攻撃のつなぎに難点があったのかもしれない。
それにブロッキングはディフェンスのトレンドではない。上体を沈める、そらす、頭を振る、かしげるといったボディワークで拳を体に触らせないのがベストの手法とされる。手数が足らないのなら、右のパンチばかりにこだわらず、左フックやアッパーへと連携するコンビネーション(連続攻撃)を多用すべきだった。ただし、これもこの日のエンダムと村田との力関係を逆転させるほどの要点にはならないと断言できる。
統一戦、米国進出は白紙……それでも再起を願う
「この場ですぐに決断はできない」と進退の明言は避けた村田。それでも再起を願いたい 【写真は共同】
一方のエンダムは「ムラタは強いボクサーだが、完璧ではない。いつの日か世界チャンピオンになれると思うが、今日はいい経験になったと思う」。苦闘を粘り抜き、暫定を含めれば3度目の世界王座に返り咲いた男は、こう敗者にエールを送った。
あまりに不幸なジャッジに栄冠を取り逃がした村田の無念は、想像に難くない。この試合直前、帝拳ジムとともに村田をプロモートする米国の世界的プロモーター、ボブ・アラム氏は「もしムラタが勝てば、WBO王者のビリー・ジョー・サンダース(イギリス)と統一戦を計画する。さらに近い将来、ニューヨークのスポーツの殿堂マディソンスクエア・ガーデンでの興行にムラタを起用したい」と語っていたが、白紙に戻った。
ミドル級は人気クラスとあって、世界的なスーパースターが集積する。村田が再度意欲を燃やしたとしても、世界のスターへの道のりは楽ではない。五輪金メダリストという肩書きと、パワフルなボクシングは魅力的なだけに、それでも再起を願うばかり。
そしてそれ以上の心配はある「判定は大衆には難解すぎる。分かりにくいのなら、このスポーツ自体がなくなるしかない」――。もし、そういう方向に世論が向かうのなら、プロボクシングにとってきわめて危険な事態である。