佐藤勇人と寿人が歩む異なるサッカー人生 共通する「負けず嫌い」のメンタリティー

松尾祐希

恩師が語る「負けん気」を表すエピソードとは?

恩師が佐藤兄弟の「負けん気」を表すエピソードを教えてくれた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 仲間と地元を大事にしてきた勇人とサッカーに全てを懸けてきた寿人。振り返ると、2人は異なる道を歩んできたように思える。しかし、根底にあるメンタリティーは同じだ。それを象徴するようなユース時代の一幕があった。当時、ユースの育成に携わっていた江尻篤彦コーチは寿人についてこう証言する。

「高校3年生の時のクラブユース選手権の予選で、前半の内容が悪かったので、ハーフタイムに『全員ユニホームを脱げ。お前らにジェフのエンブレムを付ける資格はない。俺は現役時代このエンブレムに誇りを持ってやってきた。お前らに付けさせることはない。裸になれ』と言うくらいでした。

 力の差がある相手に対して、舐めてかかったわけではないですが、実際にチームとしてそういう面があったことは確かでした。寿人も前半に得点を取れなかった。だから『おい、寿人。サッカーを舐めるな』と言ったら、彼は反骨心を出してきた。『じゃあ(後半は)点を取ってこい』と伝えたら、後半だけで15点を取りました(笑)」

 勇人も寿人に負けず劣らずの負けん気があった。それを物語るシーンが高校3年時のJユースカップだ。

「Jユースカップの(北海道コンサドーレ)札幌戦でチームが負けている状況の中で、勇人が『俺が(ゴールを)決めてきます。絶対に勝ちますから』と言ってピッチに出て行った。すると、本当に決めてきたんです」(大木氏)

 その負けん気こそが、30代半ばの2人が今もなお、第一線に立ち続ける理由なのだろう。

似ていないようで、似ている

異なるスタンスで歩みを進める2人だが、”相手に負けたくない“という同じメンタリティーがある 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 約17年間、プロの世界で結果を残してきた2人はこれからも異なるスタンスで歩みを進めるだろう。しかし、彼らのベースにある”相手に負けたくない“というメンタリティーは同じだ。それは試合後に発した2人の言葉からも読み取れる。

「今日の試合には当然出たかったです。何よりチームが勝てた事が大きいと思っています。ライバルに勝てたので、勝ち点3だけでなく、プラスアルファのものを得られた」(勇人)

「勇人がベンチスタートだったので、自分がフル出場しないと(一緒のピッチに立つのは)難しいなと思っていました。でも、それ以上に試合に負けてしまった悔しさが大きいです。もう1回、名古屋のホームで試合があるので、今以上にチームとして良い状態にしたいし、個人としてもお互い良い状態で対戦できるようにしたいと思います」(寿人)

 似ていないようで、似ているのが佐藤兄弟なのだろう。試合後はゆっくりと言葉を交わす時間がなく、「あとで電話するから」と伝えて帰路に着いた。次に顔を合わせるのは11月だ。

「寿人は日本代表になりたいとか、レギュラーを取りたいという目標から逆算して動いてきました。でも、自分はやりたいことをやる。先を考えないで今のことを考えています。過去も気にしないし、先も気にしない。お互いに少しずつ考えは変わっていましたが、いま一番大事にしているものは変わっていません」と勇人が語るように、彼らは次も変わらない姿勢で戦いに挑む。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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