国王杯を席巻するアルゼンチン人監督 新世代の指導者が台頭、活躍の場は世界へ

アルゼンチン人監督たちに共通する要素は?

ポチェッティーノ(中央)はトッテナムを率いて結果を出すなど、魅力的な指導者が台頭してきた 【Getty Images】

 それぞれのチームをコパ・デル・レイ準決勝に導いた3人、そしてセビージャでリーガの優勝争いを続けているサンパオリらアルゼンチン人監督たちには、はたして共通する要素があるのだろうか。

 戦術面やチーム作りのメソッドからは多くの共通点を見いだすのは難しそうだ。彼らはそれぞれ全く異なるフットボール哲学を元にチームを率いながら、そろって主役の座に躍り出た。勝者の遺伝子を持ち、日々の仕事と選んだプレーシステムに心身を捧げている点では同じながら、彼らの成功を一括りに説明することはできない。

 1980年代、アルゼンチンでは母国の代表をワールドカップ(W杯)優勝に導いた2人の監督が持つ、2つの異なるフットボールをめぐる議論が盛んに交わされた。1つは78年アルゼンチン大会を制したセサル・ルイス・メノッティに代表される、理想のプレーを追い求めるフットボール。もう1つは86年メキシコ大会で頂点に立ったカルロス・サルバドール・ビラルドのように、結果主義に徹するフットボールだ。

 当時は大半の指導者をどちらかのタイプに区別することができたが、20世紀も終わりを迎えるころから、新たな傾向が見られ始めた。そのためメディアを通して南米各国に広く影響を与えたかつての議論も聞かれなくなってきている。

 カルロス・ビアンチの成功、とりわけアスレティック・ビルバオやオリンピック・マルセイユを躍進に導いたマルセロ・ビエルサのフットボールが「理想主義or結果主義」だけではない多様な可能性を示したからだ。

 そしてほどなく、新世代の魅力的な指導者たちが独自のフィロソフィーを携えて台頭してきた。マウリシオ・ポチェッティーノもその1人だ。上位争いとは無縁だったエスパニョール時代は挫折を味わったものの、プレミアリーグ・サウサンプトンでの成功をきっかけに強豪トッテナムの監督に抜てきされた彼は、チームだけでなく選手個人の能力も引き出す手腕が高く評価されている。

コパ・デル・レイは一例にすぎない

マルティーノ退任後は同じくアルゼンチン人のエドガルド・バウサが代表チームを率いている 【写真:ロイター/アフロ】

 アルゼンチンのヘラルド・マルティーノ、チリのサンパオリ、パラグアイのラモン・ディアス、ペルーのリカルド・ガレカ。15年のコパ・アメリカにおいて、ベスト4に残った4チームを率いたのは全てアルゼンチン人監督だった。

 今ではW杯南米予選を戦っている10カ国のうち、5カ国がアルゼンチン人監督と契約している。ペルーはガレカ、コロンビアはホセ・ペケルマン、エクアドルはグスタボ・キンテロス(アルゼンチンとボリビアの二重国籍)が続けており、チリはサンパオリからピッツィ、アルゼンチンはマルティーノからエドガルド・バウサに代わった。数カ月前に辞任したラモン・ディアスとボリビアのミゲル・アンヘル・オヨスを加えれば、10カ国中7カ国を占めていたことになる。

 それだけではない。あまり有名ではないものの、エステバン・ベッケルは15年のアフリカ・ネーションズカップで赤道ギニアを率い、同国を史上初のベスト4進出に導いた。かつてマジョルカやバレンシアで名を挙げたエクトル・クーペルは、先日エジプトを率いてアフリカ・ネーションズカップ決勝に進出したばかりだ。

 彼らはそれぞれ独自の信念を持ち、異なるメソッド、異なるプレーモデルを元に指導している。それでもアルゼンチン人監督の成功が相次ぐというまれに見る傾向が、世界規模で生じていることは確かな事実だ。

 今季のコパ・デル・レイはその一例にすぎないのである。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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