プロの誇りとアマチュア基準の狭間で 過渡期を感じさせたオールジャパン

大島和人

唯一プロに善戦した筑波大

3回戦でA東京は筑波大を相手に苦戦を強いられた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 学生で唯一プロに対して善戦したのが筑波大だった。関東大学リーグ、インカレを制している学生最強チームの真価を見せ、5日の3回戦はアルバルク東京に74−86と食い下がった。昨年は三河に54−106と大敗した悔しさを味わっている筑波大だが、学生ならではの伸びしろを証明した。

 筑波大はポイントガードの生原秀将がすでに栃木入りを決めており、加えて馬場雄大と杉浦佑成の両3年生は「どのチームもほしい選手」(伊藤拓摩・A東京HC)という逸材。特に馬場は193センチの体格とスピード、跳躍力を併せ持つスケールの大きなガードで、卒業後は海外進出を志望している。

 A東京を相手に馬場は17点、杉浦は28点を挙げる活躍だった。ただ二人は満足感でなく、悔しさを漂わせて取材に応じていた。Bリーグより上のステージを目指し「代表の先輩方や海外に目線を置いてやっていくことずっと心に置いていた」という馬場だが、オールジャパンの場で得たチャンスの価値をこう説明する。

「いくら技術を練習しても、実際にやってみないと分からないところもある。すごく貴重な経験ですし、こういった選手たちとどんどんやっていきたいというのが率直な気持ちです」(馬場)

 194センチ・95キロのフォワード杉浦は「今日は割とアウトサイド(からのシュート)が入ってそれで何とかなった」と善戦の理由を説明する。実際に4本のスリーポイントシュートを決めていた。杉浦はこうも言う。

「アルバルクよりも下の相手だからと言って、勝てたとは思わない。すべてをぶつけないと到底勝てないと最初から分かっている相手だからこそ、見ている人もドキドキするプレーが出た」(杉浦)

 A東京と筑波大の3回戦は学生の伸びしろ、チャレンジャー精神の尊さを感じた一戦だった。

コンディション調整に苦戦したBクラブ

 今季のB1は18チーム中16チームが年末年始に第15節のリーグ戦を組んだ。アリーナの確保が難しい時期ということもあり開催日がバラつき、オールジャパンに向けた試合間隔は大きくバラついていた。三河は中10日で初戦に臨んだが、京都ハンナリーズは1月2日、3日に横浜でリーグ戦を戦ったのち、4日に今大会の2回戦、5日に3回戦を戦う強行日程を強いられた。

 京都は学生相手の2回戦で控え選手のプレー時間を増やすなどしてコンディションの調整を図ったが、浜口炎HCは「けが人も多かったし(やりくりが)まあ大変でしたね」と苦しみを吐露する。選手会の前会長でもある岡田優介選手も「Bリーグと協会で管轄が違い、『どちら(の日程)が先に決まったのか』という話だったと思うので難しいとは思うけれど、もう少し公平にしてほしかった」と意見を述べる。一方で岡田は「来年以降はBリーグもしっかり連携して、ちゃんとしたオールジャパンになっていくと思う」と今後については楽観している様子だった。

 オールジャパンとBリーグの完全な連携には、やはり多少の時間がかかる。B1、B2は18チームずつで編成されているが、今大会はBリーグからの出場が11月末時点の成績で推薦された12チームにとどまった。本来ならばB3も含めてより多くのプロチームがこの大会に出るべきだったのだろう。もっとも、そのためには「32」の出場枠を大きく広げて、日程や会場確保といった運営の根本を変えなければならない。

“アマチュア基準”の一面も

決勝こそは多くの観客が足を運び盛り上がりを見せたが、準々決勝までの試合は空席が目立った 【写真は共同】

 集客や盛り上がりも、これから改善されていくべき部分だろう。9日に開催された決勝戦は千葉、川崎と東京の隣県にホームを置くチームが残ったため4844名の観客が集まり、応援の熱もあった。しかし準々決勝までは平日開催が続き、スタンドも寒々しい様子だった。

 アマチュアのトーナメントならば、学業や仕事への影響を減らす短期集中開催が合理的だ。ただしプロの試合なら観戦者の見やすさ、プレーヤーのコンディションをより重視するべきだろう。今大会の日程は“アマチュア基準”のままで、そこに過渡期ならではの矛盾があった。

 幸いにして次回のオールジャパンは開催期間が拡大され、地方開催も導入される。大会の序盤は各クラブの地元で開催する方がファン・ブースターにとっても親切だし、入場料が地元協会の収入源になる。そんなメリットがある一方で、代々木第一体育館を筆頭とする人気アリーナを押さえるなら、1年以上前から動く必要があった。つまり今大会の日程と会場については、Bリーグの日程が固まってから動く猶予がなかった。

 千葉の初優勝、Bリーグ勢の学生に対する戦いから“プロらしさ”をはっきり感じた。今後の日本を担う逸材がプロと戦う価値も伝わってきた。一方で方向性は見えつつあるがまだ至らない、過渡期ならではの課題を感じたことも事実。爽快感と若干の苦みを両方味わった新春のオールジャパンだった。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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