大久保嘉人が感じた川崎の「甘さ」とは 強さは見せるも、届かなかった初戴冠

江藤高志

けが人の影響で守備の安定感を失う

2ndステージはけがの影響でチョン・ソンリョン(1)ら守備陣がそろわなくなり、安定感を失った 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 意気込んで臨んだ2ndステージも、中盤に増え始めたけが人の影響もあり、失速が始まる。ターニングポイントは第8節のアウェーでのサガン鳥栖戦の敗戦で、これ以降、勝ち負けを交互に繰り返した。また、敗れた鳥栖戦でエドゥアルドが右肩を脱臼。続く浦和戦で井川祐輔が負傷。その後、9月上旬に招集された韓国代表での試合で故障したチョン・ソンリョンが離脱。1stステージ第12節のヴィッセル神戸戦で骨折していた奈良竜樹を含め、堅守を誇っていた守備陣がそろわなくなり、安定感を失ってしまった。

 それでも川崎は浦和と上位争いを続けてきたが、勝てば年間勝ち点1位の2ndステージ最終節のガンバ大阪戦を逆転で落とす。小林悠、大島僚太を欠く中、若手の長谷川竜也、三好康児のゴールで前半のうちに2−0にしていながら喫した敗戦により、年間勝ち点1位に与えられるCS決勝へのシード権を失った。そのCS準決勝を鹿島相手に落としたのは冒頭に記した通りだ。

 年間を通して戦うリーグ戦ではコンスタントに上位で戦えてきた。ところが、ここ一番の、勝たねばならないという試合で負け続けた。鹿島との差はここにある。1stステージで優勝していた鹿島は、勝たねばならない試合を勝ち続けた。CSで川崎と浦和を下して優勝すると、続くクラブワールドカップでも決勝に進出。レアル・マドリーを相手に日本中のサッカーファンを魅了する試合をしてみせた。過密日程が指摘された天皇杯も準々決勝からの連戦を勝ち上がり、この日の決勝でも粘り強く戦い2−1で川崎を押し切った。

新体制下で探す「技術をここ一番で出すチームづくり」

大久保嘉人は「少し甘いところがあるのかなとは感じていました」と振り返った 【写真:アフロスポーツ】

 19冠を達成した鹿島と、いまだ無冠で7度目の2位に終わった川崎との間にある差とは何なのか。言葉では表現しにくい、この質問に対する選手たちの答えは総じて「分からない」というものだった。

 分かっていれば、改善していたのだろうから妥当な答えとも言えるが、その中で今季限りでチームを離れると表明している大久保嘉人は「少し甘いところがあるのかなとは感じていました。もっと1人1人が『うまくなりたい、やってやる』という思いを持てるようになればね。強くなるんじゃないですか」と述べている。大宮アルディージャ戦で打撲し、膝に37ミリの血が溜まっても試合を続けた大久保が指摘する「甘さ」とは何なのか――。その意味を一度、考える必要はあるのだろう。

 タイトルがかかった大一番で勝てなかった川崎だが、公式戦全般における勝負強さ自体は備わってきている。技術的には日本でも有数のものを身に付けており、それをここ一番で出すチームづくりが求められる。今季限りで退任する風間八宏監督の指揮下では見つけられなかったこの解を、鬼木達(とおる)新監督の体制下で探すことになる。簡単ではないが、だからこそ楽しみなシーズンだとも言える。

 強化部が鬼木監督を選んだ理由は、コーチとして風間監督を補佐してきたその経験に、風間監督が作ってきた攻撃的サッカーの継続性を託したからだ。風間監督が残した遺産をうまく継承して、いいとこ取りができれば、03年の石崎信弘監督を引き継いだ04年の関塚隆体制への移行時のような躍進があり得るのではないか。ただ、鬼木新監督が挑むのはそう簡単なタスクでないことも理解している。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)を戦いつつチームを作るという点で、かなり難しいシーズンを覚悟する必要があるだろう。

 17年という年を川崎は敗戦から始めた。元日に公式戦で敗戦した日本唯一のチームになった川崎にとって、この年は右肩上がりにしかならない年でもある。と、そんな冗談を挟みつつ、今年こそは見えない壁を乗り越えられる1年になることを期待したいと思う。

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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