ヤンキースタジアムで井川慶を探す旅 カネシゲタカシの『ぷぷぷぷプロ野球』

カネシゲタカシ

スイート席が並ぶVIPなエリアへ

ピカピカの床に輝く伝統のNYマーク 【カネシゲタカシ】

 博物館からエレベーターで上に上がると、高級オフィスの受付のような場所に到着。どうやらスイート席がならぶVIPなエリアのようです。

窓の向こうに見える野球場は旧ヤンキースタジアムの跡地。イガワくんの汗と涙はあそこに!? 【カネシゲタカシ】

 廊下の壁には過去の名選手や名場面の写真がきれいに額装され飾られています。しかしどこを探しても井川投手の写真はありません。

A・ロッドはある。K・イガワはない… 【カネシゲタカシ】

 たしかに彼らはヤンキースの歴史を彩る伝説かもしれない。でも「あい・あむ・けい いがわ」で始まる棒読み入団会見だって立派な伝説じゃないですか!

ぞろぞろと進みます 【カネシゲタカシ】

 そんなことを思いながら歩いていくと、通路のグラウンド側に1から順に番号の振られたドアがあることに気づきます。これらはすべてスイート席に通じる扉で、全部で60部屋ほどあります。

 調べてみたところ、一室あたりのお値段は年間契約だとウン千万円だったりするとか。ここは見学ツアーでもない限り、おいそれと立ち入ることができないエリアのようです。

思わぬところで遭遇した井川の痕跡

 しかし、ここでついに井川投手の痕跡を発見したのです。

 壁の写真を眺めつつぼんやりと歩いていると、同じくツアー参加者である日本人男性ふたりが31番のドアの前で会話している声が聞こえてきました。

「ちゃんとイチローの名前があるね」
「本当だ」

 ん、どういうこと? そう思いつつ彼らが会話するドアの前まで行きました。するとそこには「YANKEES WHO HAVE WORN THE UNIFORM NUMBER 31」と書かれたプレートが。

これは……! 【カネシゲタカシ】

 過去ヤンキースで背番号31をつけた選手の名が列挙されていて、その末尾にはわれらが「Ichiro Suzuki」の名前があります。

 待てよ。ということは29番のドアの前には……!?

 僕はあわてて来た廊下を駆け戻りました。

急いで29番のドアへ 【カネシゲタカシ】

慌てて撮影したのでブレています。すみません 【カネシゲタカシ】

 背番号29を背負ったYANKEES――その栄光のリストのなかに、しっかりと「Kei Igawa」の名が刻まれていました!

背番号29は個性派左腕以外にも…

人気選手の背番号の部屋はみんなで取り合いとかするんだろうか。銭湯の靴箱みたいに 【カネシゲタカシ】

 彼はたしかにここにいた。いなかったけど、ちゃんといた。確かに活躍はできなかったかもしれない。期待外れだったかもしれない。それでもこの名門球団の新スタジアムに、しっかりと爪痕を残していました。

 井川投手の魅力のひとつは度を超えたマイペースさ。その性格は、早急な結果を求めるヤンキースとは水と油の相性だったと言わざるを得ません。それでもマイナー時代の彼が心なしか楽しそうだったのは、幸か不幸かそのマイペースさのおかげでしょう。

 個性派左腕がYANKEEだった証、しっかりとこの目に焼き付けました。

 そしてよく見ると見覚えのある名前がもうひとつ。イガワさんの次の次に29番を背負ったのは元埼玉西武のコーディ・ランサム内野手だったのです。

 日本での成績はさっぱりでも応援歌のインパクトだけで今なお語り継がれる稀有な助っ人外国人・ランサム。ヤンキース時代は故障のアレックス・ロドリゲスに代わって開幕スタメンを勝ち取るも、ほどなく自身も故障離脱するというトンチキぷりを見せていたとか。

 ヤンキースの29番は、ちょっとしたオモシロ背番号なのかもしれません。

松井秀喜選手の写真はばっちりありました! 【カネシゲタカシ】

新しさと伝統が同居したスタジアム

青空と芝のコントラストが気持ちいい。ちなみにツアー参加直前にオフィシャルショップで買ったジャンパーを着ています 【カネシゲタカシ】

 その後もスタジアムツアーは続き、いろいろな場所を見せてもらうことができました。なかでもグランドに降りられたのは大変な感動だったのですが、フィールドがアメフト仕様に作り変えられていたためマウンドやバッターボックスはありません。「あそこで田中将大や黒田博樹が…」と感慨にひたることができなかったのは少し残念でした。

ツアー後はふたたびオフィシャルショップへ 【カネシゲタカシ】

マー君のグッズは常に良い位置に飾られていました 【カネシゲタカシ】

 新しさと伝統が同居した素晴らしいヤンキースタジアム。今度はぜひ試合のあるときに来てみたいと強く思いました。

 ちなみにスタジアムからの帰り道、駅近くにある非オフィシャルのヤンキース・グッズショップに立ち寄った際、中南米系と思われる店員さんが笑顔で話かけてきました。

「コレ? コレイル? マツーイ、タナーカ…」

 われわれを日本人とみたうえでの熱心な売り込み。そこで僕からも話しかけてみました。

「ドゥユノウ、ケイ・イガワ?」

 すると店員さんは答えます。

「ケイ・イガワ……イエス。(少し間を置いて)マツーイ、タナーカ…」

 強引に話を戻す彼を見てなんとなく申し訳ない気持ちになり「ソーリー」と言いつつ店を出ました。野球があれば世界はひとつ。共有できる気まずさもひとつ。また来るぜ、ヤンキースタジアム!

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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