八村塁の渡米からNCAAデビューまで 学業もバスケも今がスタートライン

小永吉陽子

土台を作った渡米前の母校のサポート

明成高の恩師・佐藤コーチ(右)も八村に期待を寄せている(写真は2015年12月のもの) 【写真は共同】

 多大なサポートをしているのは大学だけではない。送り出す高校側のバックアップ体制も万全だった。

 現在、本人の申告によれば、旺盛な食欲とウエイトトレーニングによって、身長はシューズを履いて6フィート9インチ(約206センチ、素足で203〜4センチ)、体重は108キロへと成長。昨年のウインター杯の時点では素足で201センチ、体重は98キロだったので、この1年で身長は約2〜3センチ伸び、体重は10キロも増えている。米国のトレーニングはやはりすごいのか、と思いたくなる数字だが、急激に増えたわけではない。これまでの積み重ねが現れてきているのだ。

 八村は明成高の高橋陽介アスレティック・トレーナー指導の下、高校3年の1年間で体重を7〜8キロ増やしている。特に下半身の筋力をつけながら、走力と持久力の向上に取り組んできた。高校を卒業してからも渡米までの2カ月はバスケ部の寮に住み、高校の協力のもとで勉強に取り組み、夕方になれば部活動に顔を出してフィジカル強化に努めてきた。高橋トレーナーも「体重の増加や体の強さはこれからすぐに効果が表れてくる」と断言していたほどで、渡米直前にはすでに100キロを超えていた。「日本の逸材を育てて送り出さなければならない」という佐藤久夫コーチを筆頭とする明成高を挙げた支援は、間違いなく八村の土台を作ったと言える。

ゴンザガ大HC「彼の成長を待ってほしい」

 目下の課題は、本人も自覚しているように、チームメイトやコーチとコミュニケーションを図ることだ。バスケットボール自体は「通用します、できます、やれます!」と何度も連呼するほど、手応えはつかんでいる。しかし肝心のプレータイムがもらえないのは、HCが指摘するように「専門用語やチームのシステムを理解し、コーチが意図することをくみ取るまでに語学力を上げること」が先決だからだ。

 八村の良さは2014年のUー17世界選手権で発揮したように1対1で打開できることにあるが、状況に応じて周囲を生かし、必要なプレーを選択できるクレバーさも持ち合わせている。そうしたチームを動かす歯車になるには、ゴンザガ大では時間を要する。

「今のルイに必要なのは失敗を恐れない積極性と集中力。われわれも本人も忍耐、日本も忍耐して彼の成長を待ってほしい」とフューHC。

 その一方で、八村のリクルートにあたり、仙台の試合会場にまで出向くほどの熱心さを見せたアシスタントコーチのトミー・ロイドは期待を込めてこう語る。

「ルイは身体能力があり、シュート力もある。そんなルイを周りが評価してNBA入りだと期待するのは簡単なことだが、今、彼にとってもっとも重要なのは新しい学びを得て、トレーニングをして、毎日成長すること。彼の場合は今が問題なのではない。1、2年後にすごい選手になると思って育てている。私は彼が20歳になる時にどんな選手になるか興味があるのです」

 ロイドコーチの言葉を聞き、明成高の佐藤コーチも同じ思いを抱いて送り出したことを思い出した。

「塁に期待するのは20歳になった時。試練を乗り越えようとハングリーになって精神面が強くなった時に本当の力がつき、彼の持つ能力が発揮されるのではないか」

 ブライアント大戦の翌日、少しの時間だが八村と校内で会うことができた。チーム練習と個人授業を終え、少し休憩をして個人練習に向かうところだった。次から次へと1日のタスクをこなしていく彼に「毎日大変ではないか?」と質問すると、「この忙しい人生が大好きですね」と少しはにかんで、練習場所のホームアリーナへと足早に向かった。

 今は、ドライブインとアウトサイドのシュート力をつけることを個人練習のテーマにしているという。試練と課題だらけのゴンザガ大でのスタートライン。その歩みは少しずつではあるが、一日一日、前へ前へと進んでいる。

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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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