アンチェロッティは完璧な指揮官? バイエルンが取り戻した家族的な雰囲気

「グアルディオラはとにかく近づき難かった」

数々のタイトルをバイエルンにもたらしたグアルデイオラだが、「とにかく近づき難かった」という意見も 【写真:ロイター/アフロ】

「全選手がボードの上に乗せられていると感じている」と話すのは、テレビ局シュポルト1のバイエルン担当記者であるクリスティアン・オートレップだ。「ペップは選手全員にこう話していた。『君こそがスーパーな、スーパーなタイプだ』と、全員に話すんだ。最後には、誰もペップの言うことを信じなくなった」

 ファルクの考えは、こうだ。
「時に戦術が不自然すぎたということ以外に、グアルディオラを批判しなければならないとしたら、とにかく近づき難かったということだね。選手たちにとっても、記者にとってもそうだった。アンチェロッティの方が、バランス感覚が優れているように思える。人の扱い方においても上だね」

 オートレップは、アンチェロッティの成功例がすでにあると、ある若手の例を挙げる。

「アンチェロッティのもとでは、敗者がほぼ存在しない。グアルディオラ以上にクレバーに選手をローテーションするからね。ジョシュア・キミッヒの例を見てみよう。グアルディオラのもとでは、このチームで居場所を得るまでに厳しい時間も過ごさねばならなかったかもしれない。でもアンチェロッティ体制下では早くも出場時間を得て、さらには得点まで決めている」

 驚くべきことに、キミッヒは今季すでに全公式戦9試合中8試合に出場して、5ゴールを記録。21歳の守備のオールラウンダーは、自身を強く印象付けている。現在のドイツでは、代表チームにおいても、フィリップ・ラームの後継者になると見なされている。

 クラブの中のみならず、アンチェロッティはピッチ上でも選手にさらなる自由を与えている。元ドイツ代表のメーメット・ショルは現在、テレビの解説者として活躍している。バイエルンの英雄は、グアルディオラの仕事ぶりに最高級の賛辞を与えていた。そして今、後任監督についてはこう語る。

「アンチェロッティは、バイエルンを戦術的に解き放ったようだ」

 選手たちには、創造性を発揮するためのスペースが与えられている。それが、さらに予測不能なプレーをすることにつながるのではないだろうか。試合中、選手たちが笑みを浮かべる場面が増えており、これまで以上に楽しそうにプレーしている。支配力を発揮した後、今のバイエルンはテンポを少し落としつつ、よりリラックスしているように見える。それがまた、効率の向上につながっているように思えるのだ。

ローテーションを多用し、選手の士気を高く保つ

アンチェロッティ率いるバイエルンが今季成功を収めるかどうか。結果が分かるのはもう少し先になる 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 バイエルンはシーズン序盤を席巻したが、CLでアトレティコ・マドリーに0−1で敗れ、その数日後のリーグ戦ではケルンと1−1で引き分けた。もしかしたら、すべてが思ったように描かれているわけではないのかもしれない。

 だが、『Goal.com』のニクラス・ケーニヒは「最新の結果は驚きではない」と話す。
「最初の公式戦8試合はうまくいっていたが、問題も見て取ることができた。DFBポカール(ドイツカップ)でのカールツァイス・イエナ戦、リーグ初戦のブレーメン戦、CL初戦のFKロストフと、相手は比較の対象にならなかった。だが、ドルトムント、シャルケ、インゴルシュタット、ハンブルガーSVとの試合では、バイエルンは少し問題を抱えた」

 アンチェロッティが残した数字は素晴らしいものではあると付け加えつつ、グアルディオラが圧倒する日々は過ぎ去ったのだとケーニヒは語る。「バイエルンは少しだけだが、倒しやすい相手になったかのように見えるね」。マヌエル・ノイアーやラームといった主力選手は、最初の敗戦の後でメディアに対してこう語っている。「バイエルンは気持ちを高く保ち続けなければならない。勝ち点を手にするのは無理だとキックオフ直後に相手が感じるくらいに、試合開始から力を見せつけなければならない」と。

 それでも、「最近の試合の結果を受けて、アンチェロッティの立場が悪くなったとは思わない。いまだに非常に良い記録を保っているし、グアルディオラだってマドリーで負けたということを忘れてはいけない」とケーニヒは語る。

「チーム内でも役員会でも、アンチェロッティは大人気のままだ。選手のローテーションを多用するし、チーム全体の士気を高く保っている。こうしたことを自分がどれほど重要視しているか強調することを、アンチェロッティはやめていないんだ」

成功かどうかが分かるのは3月か4月

 アンチェロッティがバイエルンにとって完璧な人材であり、すべてをコントロールしているとの印象は全般的に変わりない。人々がその人間性やオーラ、クラブの雰囲気を比較するのは、オットマー・ヒッツフェルト時代のものだ。ヒッツフェルトは長きにわたってクラブを成功に導き、01年にはCLのタイトルももたらした。アンチェロッティにとっても、その称賛のレベルに比肩するのは簡単なことではない。

 だが、先輩監督に近づく日が来るかもしれない。「ヒッツフェルトが完璧にやり遂げた非常に良い方法で、アンチェロッティはバイエルンをシンボル化したと思う」とオートレップは語る。

「クラブの中にあった壁がなくなったように感じている。全員が一枚岩の上にいる。クラブも役員会も、選手たちもファンも、そして記者もが、ね」

 アンチェロッティはミュンヘンで、正しいリズムを見いだした。だがオートレップは、「それが奏功するかは、3月か4月まで待たなければいけない」とくぎを差すことも忘れない。その頃には、国内外での栄冠を手にできるかどうかが見えてくる。アンチェロッティのバイエルンでの現在地がまだ“春”にすぎないのかも、分かってくることだろう。

(翻訳:杉山孝)

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著者プロフィール

フランソワ・デュシャト 1986年生まれ。世界最大級のサッカーサイト「Goal.com」でドイツ語版の編集長を務め、13年からドイツで有数の発行部数を誇る「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)でドイツ西部のサッカークラブを担当する。過去には音楽の取材もしていた。ツイッターアカウントは@Duchateau。自身のサイトはwww.francoisduchateau.net。 ダビド・ニーンハウス 1978年生まれ。20年以上にわたり、ルール地方のサッカークラブに焦点を当て、ブンデスリーガの取材を続ける。09年からは「WAZ」紙のサイト(http://www.derwesten.de/)で記者を務める。ツイッターアカウントは@ruhrpoet。自身のサイトはwww.david-nienhaus.de。

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