「羽生超え」目指す宇野昌磨の決意 記録だけでなく、記憶にも残る選手へ

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羽生やフェルナンデスとの差

キスアンドクライで織田信成(左)にアピールを促される宇野 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 今季は「表現力」のさらなる向上も図っている。ジャパンオープンで滑ったFS『ブエノスアイレス午前零時』はタンゴ調の曲。独特のリズムと調和するには、音を捉えるセンスや、細かなステップワークが要求される。宇野は表現力に定評のある選手だが、以前は「自分の表現に恥ずかしさがあった」という。それはシャイな性格とも無関係ではなかった。

 しかし、シニアに上がって、自分よりも表現力がある選手と競うことで、その恥ずかしさは消えていった。

「むしろ、なんで恥ずかしがっていたんだろうと(笑)。自分は全然表現もうまいほうじゃないって分かると、恥ずかしがる意味もない。自分が動きたいように動けばいいかなと最近は思っています」

 今では「表現することが楽しい」と、宇野は笑顔を見せる。この日は、芸術面を評価する演技構成点(PCS)で90.00点をマーク。PCSを構成する5つの要素の1つで、表現力に最も直結する「音楽の解釈」では10点満点をつけるジャッジもいた(平均で9.04点)。だた、フェルナンデスはPCSで94.12点を得ており、「音楽の解釈」でも9.57点を出している。

 加えて言えば昨シーズンのグランプリ(GP)ファイナルで、世界歴代最高得点をマークした羽生は、PCSで98.56点(「音楽の解釈」は9.93点)をたたき出した。宇野は「(4回転フリップで)記録に残るだけではなく、表現力で記憶にも残る選手になりたい」と語っているが、そうなるためにも、こうした差をいかにして埋めていくかが、成長へのカギとなりそうだ。

宇野「4回転ループにも挑戦したい」

成長を続ける宇野。憧れ、尊敬する羽生の背中に「必死に付いていって、いつか追い越すことができたら」 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 全日本選手権4連覇が示すとおり、現在国内では羽生の1強時代が続いている。だが、宇野の急速な成長によって、その流れに歯止めがかかる可能性が出てきた。宇野が世界で初めて4回転フリップに成功したことは、羽生にとっても大きな刺激となったのは間違いない。シーズン初戦、ましてや負傷明けながら4回転ループに挑戦したことがそれを裏付ける。

 宇野は静かに決意を語る。

「僕がどうこう言える立場ではないんですけど、本当にユヅくんはすごい。今でも憧れているし、尊敬している選手です。今後も日本男子を引っ張っていくのはユヅくんだと思いますが、僕は必死に付いていって、いつか追い越すことができたらいいなと思っています」

 そして、さらに羽生の闘志に火をつけるような言葉を継いでいった。

「4回転ループも挑戦したいんですけど、今はフリップとトウループの構成で、だいぶ完成度も上がってきているので、フリップに不安がなくなったら、ループにも取り組んでいこうかなと思っています」

 宇野の成長は、羽生の進化にもつながる。その相乗効果は計り知れない。両者の直接対決が実現するのは、早くて12月のGPファイナルか、もしくは年末の全日本選手権。4回転フリップと4回転ループという、唯一無二の武器を持つ2人の争いは、し烈を極めそうだ。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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