日本サッカー界の発展を願う世代交代 選手会の実態と使命 石川直宏×高橋秀人
日本プロサッカー選手会の副会長を退いたばかりの石川(左)と、新会長に就任した高橋(右)。選手会の実態と、選手目線で考える日本サッカーの未来を聞いた 【スポーツナビ】
高橋が選手会の役員となったきっかけは、チームメートであり、2004年から選手会の副会長を務めていた石川直宏の存在が大きい。「選手としての振る舞い方など、ナオさんみたいになりたいという思いがあって役員になった」と話す高橋の言葉が表す通り、石川の一挙手一投足がプロサッカー選手のお手本ともいえる振る舞いだ。「それが自分がサッカーをやってるひとつの喜びだし、それが還元だと思う。応援してくれる人たちへの」と話す石川は、その“還元”を果たすために、12年もの期間、選手会の役員として日本サッカー界へ尽力してきたのだ。
プロサッカー選手への保障整備や社会貢献活動の企画立案や取りまとめ、時にはJリーグや日本サッカー協会(JFA)との意見交換など選手会の活動内容は多岐にわたり、オン・ザ・ピッチとは180度方向性が違う活動内容ともいえる。今回は、そんな知られざる選手会の活動について、新旧幹部である石川と高橋に聞いた。
「若い選手たちにも自分がしたような経験をしてもらいたい」と話す石川から、石川に憧れてきた高橋へと託されたバトン――。これは、日本サッカーの発展を願うすべての人に託されたバトンでもある。
選手間の横のつながりが強固に
高橋 選手が辞めた後のケアに対する制度づくりに力を入れています。選手がセカンドライフにスムーズに移行できるように、お金を少しでも工面できるような制度を作る、というのが一番のメインです。
そして、制度だけではなく、事務局のスタッフが選手からセカンドライフで「こういうことをしたい」という要望などを受けて仕事を斡旋(あっせん)するという活動なども行っています。プロの世界でやったという経験は、指導者とかサッカー界へ恩返しするだけでなく、それ以外のフィールドでも生きることです。プロ経験者の活躍の場を広げるためにも、そういう活動は大きな要素として取り組んでいます。
あとは選手たちが所属しているクラブの活動とは別に、選手会としての活動を増やしていく取り組みも行っています。今であれば、熊本地震や東日本大震災に対する復興支援活動が多いですね。
――サッカー教室やチャリティーオークションなどの社会貢献活動はイメージしやすいのですが、選手のセカンドキャリアに対するフォローもかなり力を入れているのですね。そういった取り組みは、以前から力を入れていたのですか?
石川 最初はなかったですね。当初は、選手会といったら選手独自で運営していくものという考えで、自分たちでいろいろな案を出し合って、選手同士が協力して何かをやっていくという姿勢でした。会費もひとりひとり収入によって違いますし。そこで、まずは選手会に所属していて、選手がプラスだと思えるようなものを作り上げていくところからスタートしましたね。
近頃は立て続けに災害が起きていることもあり、いろいろなことが起きたときにすぐに対応できるようになったと思います。(選手間の)横のつながりも非常に強くなって、何か協力して一緒にやろうとする姿勢が出てきている分、すぐに動けるように準備をしています。そういう知識や経験、つながりができて、すぐに行動を起こせる姿勢になった。いまは本当にすぐに対応できるし、サッカーでのつながりを機に支援したい人たちを集めることができる。そういう組織になることができたと思っています。
頻繁に行われる選手会での意見交換
石川(右)は2004年から選手会の副会長として長く活躍してきた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
石川 理事会といって、幹部のみんなと事務局のメンバーが月に1回程度東京に集まって会議をしています。内容は、その期間に起きた問題など、本当にいろいろなことを多岐にわたって話していますね。あとは、年に4回程度開催される労使協議会に向けて、会員の意見をまとめたりしています。労使協議会では、Jリーグ、JFAの代表の方と共に選手側の問題だけではなくて、Jリーグが今抱えている問題や検討事項を選手側の立場でどう考えているかを伝えます。
高橋 本当にいろいろな議題を話し合うんです。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)の議題もそうですし、選手の対応に関してだったり、クラブが抱えているスタジアム問題だったり、サポーターの入場者数の話等々。そういうことをJリーグや協会(JFA)側の意見も聞きながら、選手としての意見を伝えています。
あとはクラブの選手会代表者が年に2回集まる総会があって、その総会の前に行われる理事会では「こういうことを協議事項として総会にあげます」という話し合いになります。総会がないときの理事会は、選手会がもっと発展するためにはこういうことができないかなど、いろいろな議題をみんなで話し合っています。
選手を支えるさまざまな制度が確立
石川 小規模企業共済加入者への補助金制度を立ち上げました。JリーグとJFAと選手会の3者がお金を出し合って、引退後の退職一時金じゃないけれど、現役のうちからそのあたりを考えることができる制度です。選手会の会員として小規模企業共済制度への加入を絶対条件にして、なかなか年俸が少なくて掛け金を払うのが厳しい選手たちに対してもサポートできる幅が確立できたと思います。
――例えば競技面に関してなど、ファン目線で直接変化を感じられるようなことも話し合われているのでしょうか?
石川 もちろんそうですね。最近でいうと放映権(※)ですかね。
高橋 放映権料が上がるということは、メディアからの注目のされ方が変わってきます。いま、J3はハイライトしか映らないけれど、全試合中継されるようになったりだとか。また、Jリーグが独自に映像を制作してサポーターの皆さんに流すというようになれば、選手としてはインタビューに対して前向きに取り組んでいかなければいけません。
石川 先日放映権に関しては発表がありましたが、僕らが話し合っていた時はまだ決まっていなかった。その時点では、もっといろいろな意見を出し合いながら、「お金がもし入ってきたときはどういう形でサッカー界で活用していくのか?」というのは選手の立場からもいろいろと提案させていただきました。そのときはざっくばらんに話したのですが、はっきり決まったのでこれからはさらに密な話になっていくと思います。
※パフォーム グループ(Perform Group)がJリーグの放映権を10年間、約2100億円で獲得。今年の夏にサービスを開始するスポーツの動画配信サービス「DAZN」で、Jリーグの全試合を生中継することを発表した。