ボルト、五輪3冠への必須条件 不安払しょくも練習量の確保が鍵

及川彩子

「ボルトvs.米国勢」のライバル関係

ボルトのレース内容は及第点とはいえ、練習不足を露呈する走りになった。また、試合後は、記者の何気なく聞いた質問で「ボルトvs.米国勢」のライバル関係をあおることになった 【Getty Images】

 レース後に記者から「ガトリンやマイケル・ロジャーズなどの米国人選手が、あなたがジャマイカ選手権を棄権したことをいろいろと言っていましたが、どう思いますか?」という質問が飛ぶと、ボルトの表情は険しくなった。

 全米選考会の場でボルト欠場の知らせを聞いた米国のスプリンター達は「足が痛いっていつも言っているし、大きな大会には合わせてくるから、そんなに深刻じゃないと思うけど」というような内容の発言をしていた。また、米国では過去にどんな実績がある選手でも救済措置やレース免除などなく、選考会で上位3位に入った選手が自動的に代表になるという“世界一厳しい選考会”としても知られているため、米国選手にはボルトの状況を多少うらやむ気持ちもあったのかもしれない。

「本当にけがで欠場したのに、ズルをしたみたいに言われてあまりいい気持ちはしない。ほかの選手に対する敬意がないと思う」とボルトは厳しい口調で話した。

 記者たちが何気なく聞いた質問とはいえ、リオ五輪を前に「ボルトvs.米国勢」のライバル関係をあおる形となった。

伝説の最終章をどう締めくくるか

 リオ五輪を「最後の五輪」としているボルトにとって、3冠で3連覇というのは大きな目標の一つだ。「伝説になりたい」と常々公言しているように、3冠で伝説に新たなストーリーをつけ足したい。

 鍵になるのは最初の種目100メートル。昨年の世界選手権・北京大会ではガトリンに苦しめられ、最後に胸の差で勝利をもぎ取っている。ボルト9秒79、ガトリン9秒80とわずか0秒01差だった。

 2008年の北京五輪以来、2位以下に大差をつけて圧勝する姿を見慣れていた人々には驚きの結果だった。昨年、涙を飲んだガトリンは、リオ五輪の大舞台でのリベンジに闘志を燃やしている。「去年はウサイン(ボルト)と走る機会がなかったから、後半パニックになったけれど、今年は心の準備ができている」と話すが、ボルトも「去年よりもコンディションは良い。だから何の問題もない」と負けてはいない。

 最初の種目100メートルで金メダルを取れば、その勢いで200メートルも3連覇は確実になる。ボルトはもともとスタートを得意にしていないが、残り2週間強で少しでも精度を高めたいところだ。100メートルのスタートで大きく出遅れないことが、3連覇の必須条件になる。

 北京五輪を驚異的な走りで世界を制してから8年、一度も王座を譲ることなく世界の頂点に君臨してきたボルト。伝説の最終章を自らが望む形で締めくくることができるだろうか。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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