スタートは20人のサッカーチームだった!?  FC岸和田が総合スポーツクラブになるまで

中田徹

FC岸和田で開かれるさまざまな教室

FC岸和田では、子供たちのアドベンチャーキャンプも開催されている 【写真提供:NPO法人 FC岸和田】

「総合型地域スポーツクラブ」としてFC岸和田が大きくなっていくと、今度は岸和田市テニス協会から「硬式テニスクラブを作らないか」という打診があった。

「廣岡知之先生という、大阪の国体監督を務めるようなすごい人が高校を定年退職するタイミングでした。その人が『協力して教えてもいいよ』と言ってくれたんです。とはいえ、活動は週1回ですから、うまくなって試合に勝つまでには至らない。でもテニスは男女、子供から大人までできますから、『総合型地域スポーツクラブ』としてはいいですよね。

 廣岡先生は顔が広いので、FC岸和田主催のテニス大会を大阪テニス協会公認の大会にしてくれました。この試合に出ればポイントを稼ぐことができるので、エントリー料を払って選手が参加してくれる。特に中学校は軟式テニスをやっている場合が多いので、硬式テニスをやっている中学生に人気のある大会です。もちろん、学校の部活で軟式テニスをやり、週1回うちで硬式テニスをやる子もいます」(河内)

 バクテン教室は、河内が他の総合型地域スポーツクラブを視察した時に、「これ、いいな」と思って作ったものだ。

「“マット運動教室”と言っても、もう一つインパクトがないので、“バクテン教室”にしました。バクテンができるようになるためには、前転、後転、開脚、飛び込み、倒立運動といった基礎ができないといけない。小学生にこれをやらせると、バクテンまではできなくても、開脚前転は間違いなくできます。中学校の体育の授業でやるマット運動はバッチリです。成績もバッチリ(笑)。しかも、うちのバクテン教室の指導者は、服部親子なので、『(忍者)ハットリくんのバクテン教室』と名前のインパクトも大きいんです(笑)」(河内)

「大人の山登り」という年4回のアドベンチャー教室は、高校の山岳部の顧問をしていた専門家を2人見つけてガイドに付けている。

「そういう人はすぐには見つからない。『こういうのをFC岸和田でやりたいな』というのを頭の片隅に置いておいて、飲み会の席で出会いがあった時に、『山登りに毎週行っているんですか。それなら、1度FC岸和田でやってください』と頼みました。いろいろなところで指導者を見つけてきて、捕まえたら離しません」(河内)

 子供のアドベンチャーは、昨年度の実績を紹介すると「カヌーと川遊び」「キャンプとラフティング」「スキューバーダイビング」「スキー」と4回実施した。

「カヌーは2泊3日で、和歌山県串本市のちょっと先にある古座川という清流に行きます。温かくて透明という川は少ないんです。鮎やヤマトテナガエビというのがいて、それを捕まえたりしています。カヌーをして、休憩場所にテントを張っておいて、そこにお弁当を配達してもらう。また川で遊んで、途中で岩があったらそこから川に飛び込ませる。それだけぜいたくして1万2000円です」(河内)

「ヨーロッパのようなスポーツクラブを作りたい」

いずみスポーツヴィレッジでは中国U18女子代表対大阪体育大学の国際親善マッチも行われた 【写真提供:NPO法人 FC岸和田】

 多くのスポーツマンが「ヨーロッパのようなスポーツクラブを日本にも作りたい」と夢見てきた。河内自身、若かった頃は1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地で観戦したり、毎年のようにヨーロッパにスキー旅行をしながら、海外の優れたスポーツ環境を肌で感じていた。

「スイスを見ていると、町のちょっとはずれにサッカーのグラウンドがありました。森があって、次に牧草があって、それが切れたらサッカーのグラウンドがある。必ずグラウンドはあるんです。それからポツポツと家があって、町に入ったら駅がある。また、しばらくして森があって、牧草があって、グラウンドがあって、町がある。その繰り返しだなと思いました。大阪でグラウンドを作るにしても、土地が高くて広いグラウンドは作れない。どうやって作ろうかというのがありました」(河内)
 
 先に紹介したサッカーピッチがあるいずみスポーツヴィレッジは町と自然の境に位置している。こちらは、まさにスイスのイメージのようだ。一方、ストリートダンス、ヨガやバクテン教室を行うクラブハウスは、岸和田市内の倉庫の空きスペースをリノベートし、きれいなカフェも設けてジャズ鑑賞会も開いている。また、FC岸和田主催のサッカー大会では、このクラブハウスがアウェーチームの宿泊場所となる。

 今から14年前、20名のU15サッカーチームからスタートしたFC岸和田は、本場ヨーロッパのスポーツクラブとは異なった形で発展し、今は650名ものメンバーを抱えるようになった。

「一度、『総合型地域スポーツクラブ』なのに『FC岸和田という名前はおかしいのではないですか?』と大阪体育協会から聞かれたことがあるんです。『ブラジルにはフラメンゴという名門サッカークラブがあるんですが、彼らはCR(クルーベ・ジ・ヘガータス・ド・)フラメンゴと言うんです。うちはFC岸和田でいきます』と答えたら、それで納得してくれました。だから、うちはFC岸和田のストリートダンスだったり、ヨガだったり、フラ(ダンス)だったり、バクテンだったり、テニスだったり、アドベンチャーだったりするんです」(河内)

 季節によってはいずみスポーツヴィレッジの人工芝の上でヨガ教室が開かれるという。それだけ、ここのピッチは空気がうまい。私も自慢のコーヒーを淹れてもらったが、ウッドデッキで飲むコーヒーの味は格別だった。

「ヨーロッパのアマチュアクラブは、プロのチームを年に何回か呼んで試合をして、その収益をクラブの運営に使ってるんですよね。うちは、セレッソ大阪の泉南地域のスクールのオーナーをしているから、将来はセレッソ大阪対泉州地域選抜の試合を開催して、クラブの発展につなげたりしたいですね」。河内の夢の話は尽きない。そして、私もその話を聞きながら、「そうそう、それぜひ実現させましょうよ」――とうなずき続けるのだった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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