コンペの裏側、バルセロナのこだわり 知られざるカンプ・ノウの改築計画(2)

スポーツナビ

長期間にわたったコンペティション

今回の新カンプ・ノウ改築プロジェクトに携わっている日建設計の勝矢武之氏、村尾忠彦氏、内山美之氏(左から) 【スポーツナビ】

 新カンプ・ノウの改築にあたって、バルセロナが提示した必要条件が明記された募集要項は詳細かつ多岐に渡っていた。国内外で数々のプロジェクトを手掛けている勝矢氏にとっても、驚くことが少なくなかったという。

「20冊ほどの書類と、1.6GBのデータが送られてきたんです。『これを全部読んでやるのか……』という感じの(笑)。向こうもいろいろと自分たちで検討を重ねてきていたんですね。だから、達成しなければいけない条件がたくさんあって、それを全部解決しながら案を作るのがなかなか大変でした」

 さらに、通常のコンペは3カ月ほどで終わることが多いが、今回のプロジェクトは長期間にわたるものとなった。それは、バルセロナがスタジアム改築を一緒に行うパートナーを見定めていたのではないかと内山氏は語る。

「昨年12月で(案を)出して終わりのはずだったんですが、そのまま3月上旬の発表まで、バルセロナからいろいろと質問を受けました。それは『このチームを当選させたら、一緒に仕事をやっていけるんだろうか』ということを試されたのではないかと。そこでも頑張ったおかげで(コンペを)勝ち取れたのだと思いますが、結局、半年くらいチームが動きましたので、そういう意味では大変でした。

 建築の世界ではよくコンペで案を選ぶのか、人を選ぶのかと言われることがあるんです。今回は両方でしたね(笑)。いい案でいい人を選びたいということで、バルセロナは時間をかけて、みっちりと選考されたんだと思います」

「豊かなパブリック・スペース」と「ライフサイクルデザイン」

新カンプ・ノウは日建設計が掲げる「豊かなパブリック・スペースの創出」「建築のライフサイクルデザイン」というテーマにも通じるものとなった 【(C)FC Barcelona】

 ファイナリスト8社による最初のプレゼンテーションは昨年12月に行われた。最終的に決定するまで、12月、2月、3月と計3回求められたという。会場は3回とも違う場所で、そこにはバルセロナの“粋な計らい”があった。

「だんだんプレゼンテーションの場所がカンプ・ノウに近づいていくんですよ。一番最初は郊外にある練習場の一角のホールで、2回目はスタジアムのすぐ脇にあるオーディトリウム、3回目にはついにスタジアムの中まで来ました。毎回、勝手が違って僕らは大変でしたけれど(笑)」(勝矢氏)

「バルセロナにどう(案を)絞るのかと聞いたら、『チャンピオンズリーグみたいなものだからね。今、クォーターファイナル(準々決勝)かな』とか言うんですよ(笑)。『次にセミファイナル(準決勝)があって』とか、冗談かと思ったら本当にね」(村尾氏)

 最後は、カンプ・ノウのインタビュールームでプレゼンテーションが行われ、クラブ幹部や建築家、バルセロナ市役所の代表など9名の審査員によって、日建設計のチームの案が採用されることが決まった。

 バルセロナの街に溶け込み、開放感のある新カンプ・ノウのデザインは「21世紀にふさわしい優美さ、透明性、フレキシビリティーを合わせ持ち、バルセロニズムを感じられる、57年の歴史と機能性、合理性の最適な融合」と高い評価を受けた。それは、日建設計が掲げる「豊かなパブリック・スペースの創出」「建築のライフサイクルデザイン(LCD)」というテーマにも通じるものとなった。

「箱ものを作るだけではなく、そこからアクティビティーを誘発し、人が交流して楽しむ、人々の暮らしや気持ちが豊かになる、記憶に残る――そういう場所を作りたいというのが会社のビジョンです。

『LCD』は建物の大きな寿命、100年持つか200年持つか分からないですけれども、その中でそれぞれの良さを生かしてものを作っていこうということです。今回は改築プロジェクトでしたので、過去のものを生かしながら、どのように新しいものに盛り込んでいくのかということを、これから日本もストック型社会へと変化が求められていく中で、ひとつの回答を提案できたと思います」(村尾氏)

(取材・文:竹内桃子/スポーツナビ)

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