再び海を渡るG大阪の「最強エース」 宇佐美貴史が見せた苦難への覚悟

下薗昌記

ここ3年間でプレースタイルが変化

今季はキック精度でアシストも量産し続けて来た宇佐美 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 129試合75得点という驚異的なゴール数に加えて、フリーキックで2得点をお膳立てした名古屋戦を見ても分かるようにそのキック精度でアシストも量産し続けて来た和製エース。

 名古屋戦では4試合連続のゴールこそ逃したが6月11日の湘南ベルマーレ戦(3−3)以降、3試合連続でゴールを揺さぶって来たそのプレーぶりには「這い上がって来た」3年間での成長が確かに表れていた。

 市立吹田サッカースタジアムでの自身初ゴールとなった湘南戦では、試合終盤の82分にしたたかにゴールチャンスをゲット。ハードワークとスタミナ面がルーキー時代からの課題で、長谷川健太監督も大一番の終盤には「あの状態の貴史をピッチに置いていても無駄」とガス欠しがちな宇佐美に見切りをつけることは珍しくなかったが、今季はそんな試合も皆無に近かった。

 そのプレースタイルの最大の変化を物語るのが6月15日の浦和レッズ戦(1−0)だろう。前半8分の先制点はハーフライン付近からアデミウソンが長い距離をドリブルで持ち込み、中央に走り込んだ宇佐美にラストパスを送って生まれたもの。「9割9分、アデミウソンの得点」と和製エースは振り返ったが、カウンターが発動した瞬間、自陣にいた背番号39のロングランがあったからこその得点だった。

「今までの僕なら、行っていなかった」

 オンザボールでは海外組を含めても日本屈指の水準にある宇佐美だが、長谷川監督がたたき込んで来たのはオフザボールの動きと、チームへの献身性。昨年から「後はオフザボールの動きで楽な点を取れるようになれば、もっとプレーの幅が広がる」と意識の変化を見せていた背番号39は、浦和戦の決勝点について「健太さんにはずっと言われていたので。ああいう時にどれだけ後ろの選手が追い越して入っていけるのかとか、そういう点の取り方ができるようになればもっと幅が増えるっていうのは言われていました」と話す。

 二人三脚という湿っぽい関係ではないが、明確な欠点も持つ天才アタッカーに遠慮なくダメ出しし続けた指揮官も、アウグスブルク移籍が決まると「最近の試合では90分間連戦で戦えるようになってきたし、そういうメンタルの部分とフィジカルの強さというところが一番成長したところじゃないかと思う」と及第点を与える。

残された課題と覚悟

「バロンドールを目指す」と夢ばかりを口にした5年前とは違う、精神的な強さを今の背番号39は手にしている 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 ただ、2度目のドイツ挑戦に挑む宇佐美が必ずしも成功を約束されているとは言い難いのも事実である。体脂肪率を過度に指摘する日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督を意識し過ぎて肉体改造に取り組んだことで、持ち味のパンチの効いたシュートがやや迫力減となった。シューターとして心身ともに「脂」が乗り切っていた昨年序盤のすごみは、今の宇佐美にないのも事実だ。そして、名古屋戦でチームが喫した2失点目では、宇佐美がケアすべき右サイドバックの矢野貴章への対応を怠り、フリーでクロスを上げさせた。

 クロスやシュートの精度がJリーグとは桁違いの欧州の地で、ワンプレーをおこたればチームの致命傷となるだけに、さらなる意識改革が不可欠になるだろう。サイドハーフでの定位置獲得を目指す日本代表でも同様だ。

 一方で、「バロンドールを目指す」と夢ばかりを口にした5年前とは違う、精神的な強さを今の背番号39は手にしている。

「壁にぶち当たってこけて、またぶち当たってという人生を選びました」

 移籍会見で口にしたのは、「七転び八起き」を見据えた苦難のサッカー人生への覚悟である。

「2度目は粘り強く、地面にはいつくばってでも努力を重ね、皆さんに助けてもらう必要がないぐらいの男に成長して、またいつかこのクラブでやれることを夢見ています」

 お別れセレモニーできっぱりと別れを告げた宇佐美に、もはや失意の出戻りはないはずだ。

 3年間、和製エースとして君臨し続けた「宇佐美の時代」に自らピリオドを打ち、G大阪の最強エースが再び、海を渡る。

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著者プロフィール

1971年大阪市生まれ。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーに関わりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国で600試合以上を取材し、日テレG+では南米サッカー解説も担当する。ガンバ大阪の復活劇に密着した『ラストピース』(角川書店)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞に選ばれた。近著は『反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――』(三栄書房)

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