日本男子バレーに足りない海外経験 組織で取り組むべき支援体制の整備

田中夕子

海外勢との戦いを見据えた環境をどう整えるか

海外勢との戦いを見据えた技術力を養うための環境をどう整えるか。日本が組織として取り組むべき課題だ 【坂本清】

 キューバ戦の第1セットは、終盤に喫した連続失点のうち3本が相手のブロックポイント。オポジットでスタメン出場した高橋健太郎が言った。

「前半は気持ちに余裕もあったので相手のブロックが見えて、上から打つこともできた。でも20点以降の取り方が分からなかったので、打ち急いでしまいました。力で何とかなるだろう、と思って打ってしまったことを反省しています」

 それはワールドリーグでの高橋に限ったことではない。五輪最終予選も得点を取るためのスパイクだけでなく、劣勢時にもう一度チャンスをつくるためのリバウンドや、相手のディフェンスの隙間を狙うフェイント。日本でプレーする感覚で「いける」と思って当てても、簡単にブロックでたたき落とされた。

 日常的に海外勢との戦いを見据えた技術力を養うための環境をどう整えるか。代表チームとして海外遠征を増やすことに加え、石川祐希が大学に在籍しながらイタリアのモデナへ短期留学したように、選手が海外でプレーする方法はいくつも考えられるはずだ。

 Vリーグに属する選手の多くが企業に属する社員であり、海外移籍と言っても簡単ではないと重々承知しているが、4年後には東京五輪が開催され、おそらく、日本代表としてその場に立つのは五輪経験がない選手ばかり。ただ出るだけではなく、メダル獲得が目標であるならば、これまでの常識にとらわれず、海外でプレーすることを望む選手をバックアップする体制を整えるのは急務だ。各企業や大学、選手個々の問題としてではなく、組織として取り組まねばならない課題であるのは間違いない。

世界を知り、常識を変える

海外挑戦に興味を示した柳田(中央)。東京五輪までにどれだけ海外で経験を積むことができるか 【坂本清】

 2014年に南部監督が就任し、露呈した課題や、厳しい結果はあった一方で、いくつもの成果もあった。その象徴が、海外遠征を積極的に実施したことと、新たな戦力となる選手を代表の中心に据え、経験を積ませたことだ。

 ジュニア代表やユース代表など、年代ごとのカテゴリーでも世界を知ることはできるが、シニア代表になれば比べ物にならないほど視野は広がった、と柳田将洋は言う。

「各カテゴリーでプレーしていた頃は、ただ思い切りバレーをやっていました。でもシニアではブロックのオプションとか頭を使うようになって、だんだん頭と体を連携させてバレーボールができるようになってきた。それは急にできたことではないので、一つ一つ積み重ねたことは、僕にとって大事だったと思います」

 さらに大きな世界を知るために。柳田はこうも言う。
「アマド(アーマツ・マサジェディコーチ)のように、日本の外にいる人が考えていることって、結構面白いんです。バレーも、体の動かし方も詳しい人はバンバン言ってくるし、ただ言うだけじゃなくそれは『より良くするために言うんだ』と口酸っぱく言う。海外で学んだコーチからも同じように言われるので、自分もそういうところに身を置いたらそういうクセもついてくるし、面白い生活ができるんじゃないかな、って思うんです」

 五輪予選やワールドリーグで、選手やスタッフは多くの課題と直面する。それはなかなか解決されずにいる根本的なものも、新たに生まれるものも、数限りなく存在し、すべてを克服するには膨大な時間がかかるように思われるが、課題の数はそれだけ、進化につながる要素でもある。

 積み上げてきたものも、得られた自信もありながら、五輪出場を逃がした。その失敗を糧とし、これまではできなかった挑戦にもどうか積極的に目を向け、取り組んでほしい。
 1人でも多くの選手が世界へ飛び出すこと、世界を知る経験を持つ指導者を招へいし、これまではびこっていた常識を変えること。それができるのは、今しかない。

 日本に留まることなく、いざ、世界へ。今こそ、大きく一歩を踏み出すべきだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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