広島・鈴木誠也に高まるトリプル3の期待 覚醒間近の21歳はスターの資質十分

ベースボール・タイムズ

高い向上心が生んだ記念試合の2発

5日のソフトバンク戦でサヨナラ打を放った丸(中央)に真っ先に水をかけるなど、ムードメーカーとしてもチームに貢献する鈴木(右) 【写真は共同】

 守備は大事だが、厳しい争いを勝ち抜くためにはバッティングの成長も不可欠だ。外野のレギュラー定着が期待された今季は、「やっぱり打撃。打てないと、いくら守れても、上の人の目に留まらない」と、オフからバッティングの向上に力を入れた。そこで鈴木が目をつけたのが、ソフトバンクの内川聖一だった。
 
「一流の右打者の人に話を聞きたいと思った時、内川さんしかいないと思った」という鈴木は、かつて内川と同僚だった石井琢朗打撃コーチや、以前に内川と自主トレを行ったという小窪哲也を通じて、年明けの自主トレ同行を実現させた。

「自分の中での打撃の基準が変わった。これまではビデオで自分の打撃を見ても、正直どこが良くてどこが悪いのか、よくわからなかった。それが、内川さんに『いい時と悪い時はここがこう違う』と具体的に教えてもらって、自分でもしっかり理解した上で、修正したりすることができるようになった」と、成果を実感している。

 シーズンに入ってからも日々の鍛錬を欠かすことはない。ナイトゲームの試合後には、その日の課題を持って、ベンチ裏で打ち込みや振り込みを敢行。試合前には、今季就任した東出輝裕打撃コーチと、変化に富んだティーバッティングを行い、左手一本でのスイングから、グリップの左右を上下逆に持ったスイング、高低や緩急をつけた球を打つなど、常に考え、意図のある練習を行っている。

 その向上心は、着実に結果に結びついている。特に印象的だったのが、新井貴浩が通算2000安打を達成した4月26日のヤクルト戦だった。鈴木はこの試合で2本塁打を放ち、「勝ち試合で決めたい」という先輩の願いをかなえた。「試合前、新井さんから冗談で『ホームラン2本打ってくれよ』と言われていた。記録に花を添えられてよかったです」と笑ってみせた。

スターへの資質は十分!

 39歳のベテランの新井が「本当にかわいい後輩」と語る鈴木は、1軍野手陣では最年少の部類に入るが、物怖じすることなくムードメーカーの役割も担っている。

 勝利した試合後、お立ち台のヒーローに水をかけるのも、鈴木の仕事だ。本人は「あれは言われてやっているだけ。先輩にそんなことできませんよ。僕は基本的には静かにやりたいタイプですから」と笑うが、「プロは目立ってナンボですから」とまんざらでもない様子も見せる。
 
 あわやサイクルヒットの活躍を見せた6月5日のソフトバンク戦の試合後には、大記録のかかった9回の打席について問われた時、「サイクルだったんですか?」と周囲を笑わせるなど、鈴木の周辺には笑顔が絶えない。スター選手となれる資質を、間違いなく持っている。
 
 試合を重ねるごとに存在感を増している背番号51。やや下駄を履かせながらも、期待したいのが「トリプルスリー」の達成である。広島の選手では、これまで野村謙二郎、金本知憲の2人が達成した大記録。昨季はソフトバンク・柳田悠岐とヤクルト・山田哲人の同時達成で話題をさらったが、鈴木自身も「年齢も近いし、負けたくない気持ちを持っている」と同じ右打者の山田には対抗心を燃やしている。今や侍ジャパンにも欠かせない名選手となった山田に肩を並べることができれば、カープの未来も明るいものになる。

 3割30本30盗塁。広島が誇る若き「5ツールプレイヤー」が、「トリプルスリー」を達成する日を、鯉ファンは待ちわびている。その日がやってくる可能性は、十分にある。

(文・大久保泰伸/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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