シメオネがアトレティコに残してきた足跡 エリートの仲間入りを果たした手堅い集団

実利主義vs.スペクタクル

実利主義がすぎると批判されることもあるが、シメオネ(写真)が指揮を執るようになって以来、アトレティコは数々の成功を手にしてきた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 この数週間、アトレティコのプレースタイルの是非をめぐって、国内外で議論が行われてきた。アトレティコのプレーは華やかさが皆無で実利主義がすぎる、スペクタクルを追求するバイエルンやバルセロナと同等のリスペクトを受けるには値しない。そんな批判を多く耳にしている。バイエルンもバルセロナも、他でもないディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ相手に敗退したというのにだ。

 この議論については、第一に良いプレーとは何なのか、フットボールをどう捉えるかを考える必要がある。やり方にこだわらず、フットボールを勝利という結果が求めるプロスポーツととるならば、シメオネが監督に就任した2011年以降に数々の成功を手にしてきたアトレティコは、あらゆる称賛に値するチームである。

 一方で、フットボールにはスタジアムの入場料やテレビの視聴料を払う観客ありきのエンターテインメントであるという側面もある。そう考えた場合、スペクタクルなプレーを追求することなく、限られたチャンスや相手のミスにつけ込むことに専念しているアトレティコのフットボールに対する貢献度は低い、と言えるかもしれない。

成功の陰に多大な労力と豊富な知識

アトレティコのファンはきっと、ここ数年の栄光の記憶を宝物のように胸にしまっておくだろう 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 今言えるのは、シメオネの就任以降、それまで方向性も曖昧なままリーガの中位をさまよっていたアトレティコが、わずかな期間のうちに豹変(ひょうへん)したということだ。今のアトレティコは勝者のメンタリティーを持ち、手堅く、集団として成長し続けているチームだ。

 シメオネが自身のチームを表現するのにしばしば使う「ナイフをくわえながらプレーする」といった表現や、試合中やその前後に時折見せる大人気ない言動といった、ささいなことばかりに注目が集まった結果、シメオネのダーティーなイメージが必要以上に植えつけられている恐れはある。

 だがはっきりさせておきたいのは、アトレティコは多大な労力を払って戦術やシステムを磨き上げ、所属選手の能力を最大限に生かすことで、現在の強さを身につけたということだ。バルセロナやレアル・マドリーレベルのメガクラブとリーガのタイトルを争い、3年間で2回もCL決勝に勝ち残ることなど、もちろん偶然のなせる業ではない。成功の陰には、多大な労力と豊富な知識があったのだ。

 10年ほど前から監督として経験を積んできたシメオネは、今もさらなる高みを見据えている。アトレティコがフットボールにおけるエリートの仲間入りを果たしたことは疑いようのない事実だ。アトレティコのファンはきっと、ここ数年の栄光の記憶を宝物のように胸にしまっておくことだろう。

(翻訳:工藤拓)

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント