早熟の天才ブライス・ハーパー 真のスターへ、残るはプレーオフの壁
自分を保ち続けるすごさ
23歳にしてすでにMLBの顔。2年後のFAの際には大騒ぎになりそうだ 【Getty Images】
若いうちにこれだけの成功を手にすれば、同時にさまざまなリスクが生まれくるもの。しかし、ハーパーに関しては、将来にも大きな心配は必要なさそうだ。
「あれだけ注目される立場で力を出し続けるのは簡単なことではない。いろいろな人が近づいてきて、さまざまなことを言おうとするからね。僕も自分のキャリアを振り返って、周囲の人々の言葉に耳を貸さなければ良かったと思うことがある。(ハーパーは)あの若さで自分を保ち続けているのは本当にすごいと思う」
現在はブレーブスでプレーするベテラン外野手、ジェフ・フランコアは目を細めてそう語っていた。このフランコアも、デビュー当時はスター候補として騒がれた選手。しかし、周囲の言葉に惑わされ、選球眼の悪さといった欠点も露呈し、結局はロールプレーヤー止まりで終わってしまった。
米国には“天才児”は頻繁に現れるが、それぞれの理由で、フランコアのようなてん末をたどるケースの方がはるかに多いのが現実。それゆえに、ハーパーのここまでの軌跡はより驚異的に見えてくるのである。
スポーツを超越した存在へ
米Yahoo!スポーツのジェフ・パッサン記者はハーパーのことをそう評していた。
事前の莫大な期待に応えているという意味で、NBAのスーパースターであるレブロンとハーパーには確かに共通点がある。そして、FA権を得るたびに去就を巡って社会現象的な騒ぎとなるレブロン同様、ハーパーに関しても、18年にFAになった際の行き先が早くも話題になり始めている。
「ヤンキースが12年4億5000万ドルで獲得する」。そんな予想の声もすでに聞こえてくる。18年のオフは“The Winter of Harper(ハーパーの冬)”とでも称され、史上空前の争奪戦が展開されるだろう。
ただ……。そこまで先を考える前に、ハーパーはもう一つだけ越えなければいけない壁がある。すでに多くを成し遂げてきた神童だが、ポストシーズンでのシリーズ勝利だけはまだ経験がない。12、14年のナショナルズは地区優勝を飾るも、プレーオフでは地区シリーズで敗退。ダントツの前評判で臨んだ昨季は、プレーオフにすら進めない屈辱を味わった。
今季のナショナルズは、5月4日のゲームを終えた時点で19勝8敗と絶好のスタート。去年はワールドシリーズに進んだメッツを抑え、ナ・リーグ東地区の首位を走っている。ハーパーが中軸に君臨し、14年のMVP投票で5位に入ったアンソニー・レンドン、去年のナ・リーグ優勝決定シリーズでMVP獲得したダニエル・マーフィー、14年のナ・リーグ奪三振王のスティーブン・ストラスバーグ、昨季に2度もノーヒッターを達成したマックス・シャーザーといった好選手を要するチームの視界は良好。今年はメッツと最後まで地区優勝を争いそうな予感が漂っている。
ハーパーがレブロンのようにスポーツを超越した存在になるには、ポストシーズンでの活躍、成功は必須の要素である。逆に言えば、プレーオフで壁を打ち破ったとき、その上昇を阻むものはもう何もなくなる。迎えた16年、ハーパーは真のスーパースターへの最後の階段を上るのか。
“選ばれし男(Chosen One)”の進撃は続く。無人の広野を行く早熟の天才スラッガーの行方から、今シーズンを通じて決して目を離すべきではない。