精神状態が明確に表れたバルセロナの不調 状況が一変したリーガの優勝争い

問われるルイス・エンリケ監督の手腕

連敗中の采配やコンディショニングなど、ルイス・エンリケの手腕も指摘されている 【写真:ロイター/アフロ】

 本コラムで繰り返し主張してきたように、ルイス・エンリケ監督はチームが結果を出しているというだけで地元メディアから過大評価され、2015年の最優秀監督にも選出された。

 だがシーズンの大詰めを迎えた今になって、ルイス・エンリケはチームを万全のフィジカルコンディションに仕上げられなかったことが指摘されるようになった。

 CL敗退の翌日、恋人のモノマネをして「これはフットボールの1試合。人生は続くしどうってことないわ」と語った自撮りビデオを公開したことで批判を受けた変わり者ダニエウ・アウベスに対する対応もいただけなかった。罰として彼を先発から外したバレンシア戦では代役のセルジ・ロベルトがいまいちで、右サイドからの攻撃がうまく機能していなかったにもかかわらず、アウベスを投入することなく試合終了を迎えることになった。

 それだけではない。レアル・マドリーに敗れた翌節、苦手とするアノエタでのレアル・ソシエダ戦は実験的メンバー構成で臨むべき試合ではなかったにもかかわらず、ルイス・エンリケは3人の控えMFを先発起用した。その一人、けがによる6カ月間の長期離脱から復帰したばかりのラフィーニャはこの試合で内転筋を痛め、ハーフタイムに交代を強いられることになった。

 結局レギュラーの3選手を投入するも時すでに遅く、この試合で2連敗を喫したチームは直後のCL敗退でいよいよ危機感を募らせることになる。そして過剰に神経を尖らせた状態で迎えた17日のバレンシア戦では、失点とともに冷静さを失う完全な自滅パターンにはまってしまった。

勝ち点差はないに等しい

優勝を争うライバルたちは調子を上げている。勝ち点差はないに等しい 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 バレンシア戦では特に顕著になったことだが、ルイス・エンリケ率いるバルセロナはこれまでも組織的な守備が機能していたわけではなく、ハビエル・マスチェラーノとジェラール・ピケの個人能力に救われている部分が大きかった。しかもクラブはかなりの資金をセンターバックの補強に費やしてきたにもかかわらず、いまだに彼らは代えのきかない存在であり続けている。

 まだバルセロナは残る試合で全勝すれば優勝できる立場にあるが、ライバル2チームとの勝ち点差はないに等しい。しかもアトレティコとレアル・マドリーはここに来て調子を上げ、予期せぬチャンスを手にしたことで士気も高まっているだけに、残り5試合の“ミニ・リーガ”ではあらゆることが起こり得る。

 いまだにスポーツ心理学の重要性に疑いを持つ人がいるとしたら、考えてもらいたい。今のバルセロナ、そして彼らを追う2チームほど選手たちの精神状態が明確に表れている例はあるだろうか。

 誰もが失敗を犯すことを許され、これから何が起こるか確信を持って断言することが決してできない。だからフットボールは素晴らしいのである。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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